おうじーびーふ
「よくぞ参った、勇者ドナよ」
勇者ドナは玉座の間で、王様から直々のお言葉を受けている。
「ははっ」
勇者ドナは六歳なので、難しい受け答えはできない。
玉座の間に入る前に、「何を言われても『ははっ』と答えるように」と言われていたから、その通りに答えただけだ。
「勇者ドナよ。勇者の使命については、心得ておるな」
「ははっ」
「うむ。では規定通り、今日の正午、魔力還元の儀を執り行う」
「ははっ」
魔力還元の儀は、この五十年だけで十七回行われた。
これによって世界の魔力量が回復したという報告はないが、これのお陰でギリギリの状態を保てている、と専門家は言っている。
「王族からの殉還者は、第七王子アメデーオとなる」
「ははっ」
平伏して答える勇者ドナから視線を切り、王様は傍らに控える少年に目を遣った。
「アメデーオ、前へ」
「はっ」
王様に呼ばれた少年は、勇者ドナに並び立つ。
ドナよりも少し年上で、艶やかな黒髪に赤い衣装の美少年だ。
ドナは、そのキラキラした美少年を横目で除き見て、思わず「わぁ」と声を漏らした。
アメデーオはそれに気付くと、ドナの方を見下ろし、くすりと笑った。
勇者が男なら、殉還の王族は女。
勇者が女なら、殉還の王族は男。
百数十年前から続く慣わしだ。
魔力のない単なる王族が、勇者の魔力還元の儀に殉じる意味は、特にない。
元々は王族の継承争いに端を発し、当時の最有力者が、他の有力候補を物理的に潰すために打ち立てた慣わしだが、いつの間にか伝統になっていた。
「宜しくお願いいたします、勇者ドナ」
「ははっ」
「もう、王との謁見は終わったのですから、それは結構ですよ」
ドナの答えに、アメデーオは思わず苦笑してしまう。
「本当は王族より、勇者の方が序列は高いのですし」
そう付け足すと、勇者ドナはようやく真っ直ぐアメデーオに視線を向けた。
こんなに綺麗な男の人がいるのか、とドナは改めて驚いた。
「勇者ドナ、貴女はこれから、私達が何をするのかわかっていますか?」
アメデーオは問う。
「魔力かんげん?の儀です」
ドナは答えた。
「具体的に何をするのか、ご存知ですか?」
「ごめんなさい、知らないです」
ドナの答えに、アメデーオは深い溜め息をつく。
勇者ドナは、自分の答えが何か間違っていて、それでこの王子様を失望させたのかと、慌てた。
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