ゆうしゃりばんばん(異世界ファンタジー)

どなどなどな

世界から魔法が消えて二百年。

専門家によると、世界中から魔法の源となる力、「魔力」が薄れているらしい。

このままでは、魔力不足で世界が崩壊するとのこと。


別の専門家は「魔力濃度変化は単なる周期的な物で、過去何度も起こっていたこと」だと言ったが、今回の事態がそれだと証明する術もない以上、大衆はよりセンセーショナルな説に惹かれ、終末論を騒ぎ立てる。


そうして、二百年以上の間、この世界は終末を続けている。



魔法を失った世界で最後に残されたファンタジーは、神の奇蹟だった。

具体的には、神による勇者の選定だ。


ある日突然、天から降り注ぐ光に包まれた少年または少女が、神の魔力を得る。

これが勇者の選定であり、選ばれし者が勇者と呼ばれる。


勇者は神の魔力を得ているから、炎を発したり、水を生んだり、空も飛べれば、海さえ割れる。


世界で魔力を持つのは勇者だけ。

神が天から分けてくれた魔力の受け皿だ。

そして、世界には魔力が足りていない。

魔力が足りない世界は、そのまま滅んでしまうかも。



だから、勇者は選定されるとすぐに、その血の一滴までを世界に還元される必要がある。



勇者ドナは、A5ランクの勇者だ。

勇者の強さは最低がC1、最高がA5の十五段階に分かれるけれど、その中でも最高の魔力質だった。


「ドナや、ドナ。起きなさい、可愛いドナ」


昨日まで、ドナはただの六歳の少女だった。

六歳の少女だから、労働力としてはそう価値も高くない。


「朝御飯ができているよ、ドナ」


その割りに育ち盛りで、食費や洋服代と、何かにつけてお金が掛かる。

だから昨日までは家でも疎まれていたし、父も母も、流行り病で死んだ弟の方を、ずっと大事にしていたし、ドナは名前もあまり呼ばれなかった。


「ドナ、今日はお城に行く日ですよ、ドナ」


それが今日はもう、朝から六度は呼ばれている。

勇者ドナは嬉しくなって、両頬が吊り上げるのを止められなかった。


「おはよう、お母さん」

「はい、おはよう、ドナ」


勇者ドナは湿ったパンと、ざらつくスープの朝食を終え、真っ白なワンピース、勇者の正装に着替えた。

これは昨日、王様の使いという人から貰った、新品の服だ。

選定の光を見たお城の人が、急いで持ってきてくれた。


「それじゃ、行ってらっしゃい、ドナ」


母の見送りを受け、ドナは王城への道をゆく。

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