紙谷メイリはヤギに飼われる - 2

 そこへ、遠くから地面を蹴る蹄の音と共に、第三の男子高校生ヤギが現れた。


「お前らっ、また動物虐待かっ!」


 デッキブラシを振り上げ、前傾姿勢で走り寄るヤギ。

 メイリにヤギの顔の見分けは付かないが、誰が来たのかは判別できる。


「げっ、生物部の……」

「何だよ、餌やってただけだろ……」


 紙切れを懐に隠した二頭は気まずそうに弁解するが、


「漂白剤の入った紙なんか食べさせたら、腹壊すだろ!! お前ら責任取れんのか!」


 と角で威嚇して、第三のヤギに追い払われてしまった。


 メイリがこの飼育小屋に囚われてから二週間――いや、それ以前からか。一番多くその顔を見て、声を聴き、長い時間を共に過ごしたヤギ。


「大丈夫か、メイリ」


 飼育小屋の南京錠を外し、ヤギはするりと小屋の内側へ入り込んでくる。

 メイリは黙ったまま、横目で溜息を吐く。


「おい、メイリ」


 後ろ手に戸を締めながら、半開きの口で呼び掛けるヤギ。

 メイリは再度、深く溜息を吐いて、こう答えた。


「メェ」

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