『ゆうしゃり』『テンプラ』『ヒミズ』『チュール』『犬小屋』『神様』『青色』
「肉料理、『A5和牛と海老とモグラのミックスフライ』です」
「どういう意図でそれらをミックスフライにしてしまったのか知りたい」
「ワンプレートにすれば、食器を洗う手間が省けますので」
「牛肉のテーマはファンタジージャンルの【勇者】、海老天のテーマは【私が死んだ理由】、モグラのテーマは青春ジャンルの【ひみつ】です」
ラトル・ジョニーはひとまず、牛肉のフライから手を付ける。
「なるほどな」
A5和牛と聞いて身構えたが、実際に食べてみると、ダークファンタジー中編になりそうなネタを、面倒臭いからとぼんやりファンタジー短編にまとめたような味だった。時流に乗っているのか乗っていないのか判らないが、今までの料理の中では食べやすい方ではないだろうか。
次に海老天へと手を伸ばす。
「ふむ」
さくり、と崩れる衣の舌触り。
ラトル・ジョニーはユタで生まれ、ユタで育った生粋のユタッ子なので、和食を食べるのは初めてだ。
最後に残ったのはモグラのフライだ。
「……んん?」
「それ、作った私もさっき味見で久々に食べてみたんですが、今一意味がわからないでしょう」
首を傾げたジョニーに、
立て続けに重い物を食べたラトル・ジョニーは、ユタの空気を吸い込むために大きく深呼吸をした。
その吐き出すタイミングに合わせるようにして、
「どうぞ、『凍らせたチュール』です」
ごくり、とラトル・ジョニーの喉が鳴った。
当時のチュールは
特に内陸にあるユタでは、魚介類を摂るために、チュールのような加工食品が好まれた。
「タイトルが何かの検索に引っ掛かったのか、ここだけ若干PV数が多いな。テーマは何だ?」
「テーマは全く覚えてませんが、帳面と見比べると、消去法で【真夜中】じゃないかと思います」
ラトル・ジョニーの鋭い牙の先で、ペースト状のマグロがシャリシャリと音を立てる。舌で融けて鼻へと抜ける生臭い香りは、言われてみれば、喉が渇いた真夜中に見る悪夢のような味がした。
「『ローストドッグ』です」
薄切りのロースト肉に、生姜チューブを少し絞って、生の大葉を添えた皿。
ラトル・ジョニーは生姜を箸先で少しつまみ、肉で挟んで、醤油にちょんとつけ、一口に頬張る。濃縮された旨味が口内にじわじわと広がる。ジョニーは普段、ジャガーを相手に戦うことはあっても、コヨーテを見たことは無い。ユタ全域は凶暴なジャガーの縄張りなので、コヨーテが入る隙間は存在しないためだ。
「この歴史というか、時代がかった風味は珍しいが、またテーマが決められていたのか?」
「ええ、【生きる】をテーマにした歴史・時代ジャンルの料理ですね」
「なるほど、だから所々に世紀末感があるのか」
「いえ、それは単に、一行目で元禄云十云年と書いた時点で、何となくやりたくなっただけです」
ラトル・ジョニーは
「ふうむ」
どうもこの料理は、肉よりも補足として添えられた大葉がメインのように思えた。
無言で
フルコースの流れで言えば、次は生野菜だ。
「お次、『神頼みのタンブルウィード』です」
タンブルウィード。荒野の只中にあるソルトレイクでも育つ移動性の野菜であり、西部開拓時代における貴重なビタミン源だ。土がなくとも育つことから、
交通網の未発達な時代において、この
「神頼みの、とは?」
「はい、毎朝、店の前に酒樽を置いて、新鮮な奴が中に飛び込むのを祈るんです。今日のは当たりですね」
食感としては、労働への憎しみだろうか? そういったものを感じる。
もしゃもしゃとヤギのように口を動かすジョニーをそのままに、
「お待たせしました。『青くて甘いイカ』です」
「青くて甘いイカ」
「はい、『青くて甘いイカ』です。テーマは【青】ですね」
ジョニーの確認に対し、
当時、北アメリカ大陸は極地を除き、大半が赤い荒野に覆われていた。そのため、都市部ではこういった合成着色料によるカラーリングを施した料理が好まれた。
素手で裂いて口に放り込み、噛み締める。甘酢の味が広がり、唾液が溢れた。
「作った時の記憶はほとんど飛んでいますが、見た所、青という色を本文中に明記せず、逆に埋め込んだ他の色を空気感の青で塗り潰す、というお遊びをしていたんじゃないでしょうか」
「タイトルやサブタイトルは、どう見ても真っ青だが」
だからこのイカも青いのだろうと考えながら、ラトル・ジョニーは手に着いた着色料に顔を顰めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます