ぼくがテンプラになったワケ - 5

「ほれ、もう油も煮立っておる。素直にテンプラにならんか」


ぼくは今一、納得ができなかったけれど、仕方ない。

海老であることがテンプラになる理由となるのなら、そういうものなんだろう。

ぼくは大人しく、カラリと揚がった。


「揚がりましたよ、長老」

「うむ、ご苦労」


本当にご苦労だ。テンプラになる労力は、テンプラを食べるそれの比じゃあない。

確かに、こんなのは長寿の象徴でもある海老でなきゃ、耐えられないだろう。


「あっつ……すみません、これもう脱いでもいいですか?」

「ああ、すまんの。その辺に置いておいてくれ」


ぼくはサクサクの衣を脱いで、ハンガーラックにひっかける。

多少衣の欠片が長老の服につくかも知れないけれど、美味しい衣だ。長老だって文句は言うまい。

ぼくは溜息をついて、長老宅を辞した。


「あーあ、蛋白質が変性しちゃってる」


自分の身体から、美味しそうな匂いまでしてきた。最悪だ。

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