第3話 風変わりな計量スプーン
この部屋は、床も壁も天上も、全て冷たく硬いコンクリートでできていた。
そんな冷ややかな灰色の世界を、真っ白の蛍光灯が時々消えそうになりながら頼りない光で照らしている。
窓すらなく気味が悪い部屋だ。
……コンクリートの部屋に木の扉だって?
おかしな組み合わせだとは思うが、閉じ込められているわけではない事にホッとした。
どこも縛られてないし誰もいないから、誘拐ではない気がする。
青いチェックのパジャマだったはずが、いつもの黒いパーカーとジーンズに変わっていた。歩きやすくて気に入っている白い靴まで履いている。
どれも間違えなく僕のものだ。というか、自分で着替えた気もする。
……なぜ?
部屋の中を見渡したが、お目当の時計は無いようだ。
それどころか、無造作に床に落ちている大さじ計量スプーンの他は、何もない。
もう、バッチリ目が覚めてしまった。
起きて何かするしかないだろう。
僕は、ガラスの小細工を持つ時と同じように、そっとそれを拾った。
クエスチョンマークのようにスルリと曲線を描いている持ち手。
細めのシャープペンシルのような太さで、自分専用なのかと思ってしまうぐらい、手にフィットする。
だが、すくう部分がその持ち手と釣り合っているとは到底思えないし、おまけに銅色と来た。
それでも、これはこれでアリなのかな、と思ってしまう。
そうだ、こんな風変わりな計量スプーンは、そうそう見かけるものじゃない。
なんだか……見覚えが、あるような?
そこで、ようやく記憶が蘇る。
「そっか……」
思わず口から飛び出すその一言は、コンクリートの壁に弾き返され、部屋の中で静かに響いた。
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