第35話 最大の強敵

「時間がなくなってしまう! テトロ、早く母さんとここを出よう!」


 リトーリが泣き崩れる横で、もう一つのー最大の強敵が、動き出した。


 今や虚ろになったテトロに暗示をかけているのだ。

 テトロを鍵に、自分だけがこの世界を飛び出すために。



「どうすればいいのかしら」


 ジーロアは隣にいるモノウェをすがるようにみた。

 しかしモノウェは悔しそうに歯を食いしばっているだけで、何も言わない。


「テトロ! その人の言うことは無視して!!」


 ジーロアは必死の思いでテトロに呼びかける。

 けれどその声は、届かない。



「さぁテトロ。道を開くのよ!」


 テトロの片手が、無気力そうに中へと向く。

 そこにだんだんとうねる空間ができて……。



「そう上手くは行かせんぞ!」

「ジムおじさん!!」

 ジーロアは思わず喜びの笑顔を向けた。

 モノウェの顔にも希望の色がうかがえる。


 どこかへ吹き飛ばされたジムおじさんが、戻って来たのだ。


 泣きじゃくるリトーリと、それを慰めている兄弟ロボットのテトロはちらりと見ただけで、何も言わなかった。


「すごい秘密兵器でもあるの⁈」


 ジーロアが興奮したように声を張り上げる。


「ほれっ!」


 おじさんは何かを掲げた。


「テトロのスプーン……」


 モノウェが呟いた途端、スプーンは強烈な光を放ちながら宙に浮いた。


「私の邪魔をするな!!」



 その時だった。

 四体のロボットたちの体が、スプーンと同じように光り出したのは。


「うわぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあ!!」


 どうやらこの光が、あの悪魔に効いているらしい。


「テトロ、時間は少ない! 早くここから出るんだ!」


 ぼんやりしているテトロには、よくわからなかったのだろうか。

 光をじっと見つめている。



 すると、もとロボットテトロが口を開いた。


「寂しがらないで。ボクたち、また会える」


 それにモノウェも続く。


「次会ったら、絶対向こうの話をすんだぞ?」


 ジーロアも笑った。


「私たちなら大丈夫だから!」


 リトーリも、涙で汚れた顔を上げて


「ここでお前があっちの世界に戻れなかったら、意味ないし」


 と吐き出す。




 テトロの虚ろだった目に、わずかな光が灯る。


「アリ、ガ……。ト、ウ」



 そうして彼は、歪んだ空間に溶け込み、姿を消したのだった。

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