第36話 その後

「テトロ、向こうの世界に戻れたみたいだね」


 強い光の中、自分の体が前のようなブリキロボットに戻るのを、もう一人のテトロは感じていた。


 ボクはあの子の中から、完全に出たんだ。

 今は目をつむっても、あの子の心の声は聞こえない。


 これがあるべき姿。

 けれどちょっぴり寂しかった。



 変化は、他にもあった。


 光を浴び続けている『悪魔』がだんだん薄れていくと同時に、部屋の隅の方から、床や壁が初めからなかったかのようにバラバラになって、消えていくのだ。


 ……あの子に会えるだなんて言ってしまったけれど、本当にそうなるのかな。


 と、突然ジーロアが声を張り上げる。


「あ、あれって……!!」








 みんなの光で、僕は元の世界に帰ることができた。


 そのままあの世界は壊れてしまったから、きっとみんなは今頃……。



 けれど、僕がクヨクヨしていたらみんなに申し訳ないから、今はこの世界で生きていられることを精一杯楽しもうと思う。


 僕はまた、父さんの目玉焼きをたべれて嬉しい。



 僕の体は、元通りになっていた。

 ロボットテトロが僕の中から居なくなってしまったからに違いない。


 薬を探し始めた頃なら、すっかり解決したことを喜んだだろう。でも今は……。


 ロボットが抜けた証拠に、おじさんが僕を操ることはできなくなっていたんだ。

 焦るおじさんと言ったら……!


 実はおじさんにも父さんにも、あの日のことはちゃんと話してはいない。


 父さんは僕が元に戻った事実だけで満足していたし、おじさんには言いたくなかったからね。


 あんなにたくさんのことがあったというのに、たった一日の出来事だったらしい。



 またいつものように生活が始まると、あの日のことは、夢だったんじゃないかなって思い始めた。

 最後の方は、記憶があやふやで……。


 でも、たったひとつだけ、そうじゃないと証明出来るものがあるんだ。

 これだよ。

 あのヘンテコなスプーンさ。


 いつの間に僕の元に戻ってきていたんだろう、不思議だ。



 とにかく今は机の引き出しの奥にしまってある。大切なものだから。






 机の中にしまい込まれたそれが再び、新たな冒険の鍵となることを、テトロはまだ知らない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る