第11話 男の子との出会い

 唐突に路地が終わったその時だ。


 僕は硬い何かにぶつかり、パソコンを抱えたまま、地面に身体を嫌というほど打ちつけたのは。

 地面に青々と草が生えていたから良かったものの。


「そいつを、捨てるんか?!」


 息をつく間も無く、僕の上から降って来る甲高い声。

 見上げると、五、六歳の男の子がいた。


 汚れたサンダルに、ゆとりのある黄土色の短パン。

 着込まれた感じのある白いアンダーウェアに、麦わら帽と、なかなかお目にかからない格好をしている。

 そのくせ色白で、麦わら帽の淵から覗くクシャクシャの髪が、愛らしい子だった。


「君、誰?」


 僕の声が聞こえなかったのか、それとも無視したのか。


 その子は地団駄を踏みながら、喉がちぎれそうなぐらい怒鳴ってきた。


「そいつを捨てるんか!許さんぞ!そいつだって、心があんだよ!!」


 こんなに小さい体なのに、思わず後ずさりしたくなるほどの迫力があった。


 そして、何かが、全身を駆け巡る。

 その不思議な感覚は、パソコンに貼られていたあの付箋の文字を読んだ時の感覚に似ていた。


 でも、直感的に思う。


 この子なら、このパソコンをなんとかしてくれる。

 だから、話さなければいけない、と。



 ゼイゼイと肩で息をしている男の子に、僕は内心ビビっているまま、なんとか声をかけてみた。


「僕も、このパソコンには心があるんじゃないかなって、一瞬感じたんだ。このパソコンは……怒っているけれど、本当はすごく怖くて、寂しかったんだ」


 男の子は、僕がパソコンを見つけた時の話を聞いてくれた。


 始めこそキョトンとしていたが、パソコンを受け取り、『うん、うん』と頷きながら、話にのめり込んでいる。


 案外、いい子なのかもしれない。


「そんじゃあ、おまえはそいつを助けたかったわけだ。そだからぶつかった……?」


 それから、パソコンを地面に置き、ニヤリと表情を変えると、いきなり飛びかかってきた。

 麦わら帽が吹っ飛んでいったが、気にもとめていない。


「いきなりどうっ……!!アハハッ!!やめっ…アハハ!!」


 イタズラっ子はいいだけ僕をこちょばして気が済んだのか、


「おまえの負けーッ!」


 と叫んぶと、僕の隣で大の字に寝転がり、体を揺すって笑いだした。



 こんなこと、今までされたことがなかった。

 でも、嫌な感じはしない。


 僕も少し笑いながら、

「急にどうしたの?」

 と問いかけた。


 父さん以外の人に、こんな風な笑いが自然と込み上げてきたのは、すごく久しぶりな気がする。

 僕はよく、愛想笑いになってしまうから。


 男の子は、笑い疲れたのか、ふうっと息を吐き出した。


「だっておまえは触れるし、あったかいし、何をしても消えん!」


 幸せそうな顔だった。


「あのパソコンのことは任せとけ!モヤモヤを消してみせるさ!」


 しかし、男の子の笑みは、フッと消えてしまう。急に立ち上がり、麦わら帽を拾い、被る。


 僕はどうしたらいいのかわからず、男の子に習って立ち上がった。

 するとその子は硬い表情で


「物陰に隠れて、見てるんだ。そうすりゃ、どうしてあんなに怒ったんかわかる」


 と告げた。


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