第22話 食事

 三人は、楽しく食事をしていた。


 相変わらず、ジーロアはひたすら話し続けていたが、ジムおじさんはいい人だし、何よりジーロアの話は面白い。


 ところが。僕が少し動いた時、ポケットからが滑り落ちた。あのヘンテコなスプーンだ。

 すっかり存在を忘れていたが……


「なんか落としたよ!テトロ!」


 ジーロアがソレを拾い上げる。

 僕は一瞬で雰囲気が張り詰めたのを感じた。


「えっと……これって」


 ジムおじさんは、ジーロアの手からソレを取り上げた。


 そして僕の方を向くと


「ちょっときなさい」


 と低い声で言った。


 僕が知っている怖い先生の十倍迫力がある。


 僕は、無言のまま、ジムおじさんの後を追った。




 しんと静まり返った部屋に、僕の足音が、カシャリ、カシャリと響く。

 それを聞いた瞬間、先ほどまでの悩みことや、悪夢が蘇って来た。


 とても気持ちが悪い。


 後ろでジーロアがハッと息を飲んだのが聞こえたが、僕は決して振り返らなかった。




「このスプーンを持っているということは、君も博士の失敗作なのか?」


 ジムおじさんの目が、鋭くこちらを見つめている。

 僕には、意味がわからない。博士の失敗作?


「もしくは、成功作が嘲りに来たのか?!」


 ジムおじさんは背中が凍りそうな勢いで睨んで来た。

 恐怖のあまり、僕は何度か口をパクパクさせた。


「そ、そのっ……き、き、気づいたら、ここに……」


 耳が痛いほどの、沈黙が訪れる。

 それを破ったのは、どちらの声でもなかった。


 パキパキパキ……

 乾いた、ジリジリと迫ってくるような音。


 頭の中に、何かが掠め、感覚に薄い霧がかかったような気がした。


「そういうことか」


 ジムおじさんは顔を悲しそうにゆがめた。

 そして僕の手を取った。


 触ったら、おじさんにもロボットが移るかもしれないのに……


 しかしそれさえ、どうでもいい気がしてくる。

 頭は、まだぼんやりしていた。



 何でおじさんの手は、こんなに熱いのだろう。

 フカフカで焼きたてパンみたいだけれど、ずっと握られていたら、火傷しそうだ。


 例えじゃない、本当に火傷してしまう。


 手が、ピリピリしてくる……


 フッと意識がはっきりした。


 そうだ、このままじゃ、ジムおじさんに移ってしまう!


「テトロ、これは移るものじゃないんだ」


 おじさんは僕の心を読んだかのように呟いた。


 移らない?

 その言葉を聞いた時、緊張していた体の力が抜けた。


「諦めてはいけない。早くこの世界から出て、薬を……」


 やっぱりおじさんは、僕が薬を取るために、ここへ送り込んだんだ。


 ここから出て薬をどうするんだろう?

 しかし、その続きを聞くことはできなかった。



「ジムおじさん!大変!あの子が来たわ!!」


 ジーロアが部屋に飛び込んで来たからだ。


 大変?

 あの子?

 なんの話だろう。


「ジーロア、今すぐ隠れ……」


 バサッ!! と何かが三人を包む。

 網……?


「くそっ……」


 というおじさんの歯ぎしりと


「ラッキ〜」


 という男の子の声。なんとなく、気味が悪い。




 あれ?


 この子、前に、どこかで……


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