第25話 彼は名乗る

「ロボットを動かした瞬間、真っ白な光に包まれて、わしはジーロアとの生活が始まった。わかったことは三つ。

 この世界はあの機械が作り上げた世界で、わしはロボット三体と一緒にやってきたこと。そしてここはジルの失敗作が集まっている世界だということだ。

 その時ジルの手に、あの機械があったから、ここはデータの中のような世界のはずだ」


「どうしてロボットだって言い切れんだ?」


 モノウェが首をかしげる。


「おまえたち三人はスプーンを持っている。あれは、ジルと俺が三体のロボットに描いた落書きと同じだからだ」


 モノウェはなるほどとばかりに頷く。

 ジーロアはふっと表情を緩めた。


「私、テトロがスプーンを落とした時、てっきり私のを盗んだのだと思ったわ。よく考えれば、私のはちゃんとポケットの中にあったのに」


 僕は、理解ができなかった。


 何で二人はこんな素直に受け入れているのか。


 僕が父さんと過ごした時間は何だったのか。


 どうしてロボットになろうとしているのか……



「今の話、ちょっと間違ってるぜ?」


 ザッと緊張感が走った。


「誰だ」


 ジムおじさんは格子の外を睨む。


「俺だよ、俺」


 男の子だった。


「誘拐犯!」

「機械壊し犯!」


 ジーロアとモノウェが叫ぶ。


 あれ、この子って……


「夢に出てきた人!」


 テトロの声に彼は一瞬目を細めたが、にっこりと笑った。


「ご機嫌うるわしゅう、お兄さま、お姉さま、そして弟よ。俺は、リトーリ。三体目のロボットだ」


 全員の顔に困惑が浮かぶ。


「ありえないと思ったのかな?でも残念。真実なら俺が知っている。聞きたいか?」


「おまえの言葉など、信用できない!」


 リトーリの眉が片方だけクイっと上がった。


「そ。じゃあお先にどうぞ」


 するとおじさんが座っていた床が抜け、おじさんは落ちていった。


 おじさんが落ちると、また床は元に戻って、何もなかったかのように、澄まし顔をしている。おじさんについていた手錠が、塞がった穴の上にポツリと取り残されているだけだ。


「ジムおじさんはどこにいったの?!」


「お先に会場へ向かってもらっただけさ。あーあ、俺の話、最後まで聞けばよかったのに。そしたら少しは有利だったんだけどなー」


 リトーリの目が、急に冷たくなった。


「で、みんなは俺の話、聞いてくれるよね?」


 ジーロアはまだ何か言いたそうだったが、モノウェが止めた。

 僕は何が何だかわからなくて、黙り込んでいた。


 これが、同じきょうだいだと言うのだろうか。


「うん、そうこなくちゃ!」


 気がつくと、リトーリは格子の中にいた。


「俺たちきょうだいがいるこの世界、ドンドン小さくなっているんだよ。このままここにいれば、最後は消えることになる。現に、お姉さまの花畑が消え始めているよ」


 ジーロアが息を飲んだ。モノウェはぼそりと呟く。


「この世界も機械からできてんもんな。機械の寿命ってことか」



 機械の多くは、人間より寿命が短い。

 家電十年なんて言葉もあるわけだし、増してやゴミ山からでできた機械が万全な動きをするとは思えない。


「ここの世界には出口がない、入るだけだ。そう思っていた。でもお兄さまのところに来た者たちはちゃんと帰っていく。上手くやれば出られるってことだ」


 出れば助かる。

 思考が停止しかけている頭ではよくわからない。


「でも全員じゃない」


 全員じゃない?


「この四人のうちの一人さ」


 床に穴が空いた。

 手錠が外れる。

 身体が、吸い込まれていく。


 リトーリはどういうつもりなんだろう。


 一人しか逃げられないのに、なぜ僕たちに教えたんだろう。


 ジムおじさんは?


 おじさんはこの四人に含まれていない。


 まったくわからない……

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