第29話 四体目

※  ※  ※


「おまえはテトロだ。ギリシャ数字で四はテトラ。おまえは四体目だからな。それにロボットを合わせてテトロ!素晴らしい名前だ」


視界も頭も、霧がかかったようにぼんやりしている。


ここはどこだろう。


砂嵐のような耳鳴りもする。

この感覚、何処かで……


目の前いるのは……おじさん?

どうしておじさんがいるんだ?


四体目?

おじさん、いつもと違うなぁ。

貼り付けたみたいな笑顔じゃないし。


……あれ、おじさん、若いな……




「どうしてなんだ!なぜ動かない?!ほかの三体は少しだけ動いたというのに!数字は完璧だった!」


いつの間にか寝ていた?

あれから数秒しか経っていないような気もするし、何日も眠っていた気もする。


あ、またおじさんだ。

部屋の中をグルグル、意味もなく歩いている。

イライラしているのかな。


おじさんって、本当は何者……?




「ユリナの息子が瀕死状態だと!なんとかしなければ……そうだ、テトロだ!奴と合体させれば、少しは長く生きられる……!」


あ、また眠っていたみたいだ。


ユリナ? 息子が瀕死状態? テトロと合体?


おじさんの独り言って、さっぱりだ。

そういえば、ユリナって人、何処かで……


僕の、母さん?




「ユリナが死んだ……そんなの……私はまた失わなければいけないのか……!嫌だ……せめてテトロには、生きていてもらわないと!しかし、いくらロボットを入れたと言っても丈夫ではない。そうだ……」


びっくりした。おじさんの顔が近い。


僕はまた眠っていたのかな?


何かが違う。

僕に、何かが入って来た? それとも僕が……


[この人、怖い……イヤ!]


誰かの声。

頭の中に直接入ってくる。


外で、赤ちゃんの泣き声が聞こえる。

すぐそばだけあって耳鳴りと混ざり、耳が痛い。


大丈夫だよって言ってあげたいけれど、口が動かないんだ。


それどころか全部が意思とは違う動きをする。


手も、足も、全て。


気持ち悪い……




「これでいざというときはいうことを聞いてくれるな。ついでに研究データも取れる。常に点検できる」


おじさんの顔に貼り付けた笑顔が現れる。


「テトロ〜?おじちゃんでちゅよ〜。ちょっと嫌かもしれないけれど、これを飲み込んでね〜」


[助けて……!怖い!怖い!どこかに行って!!!]


睡眠妨害だ。

僕も嫌いになりそう。おじさんのことが。

妨害して来たのはおじさんではないけれど。


ていうか、今何か口に押し込まれたよね。

あ、飲み込んだみたいだ。感覚は確実に自分のものだからな……



あれ、もしかしてこれって……

前におじさんがテトロと息子を合体とか言ってたような。


だとすれば、この叫びや頭の中に直接響く声は……赤ちゃんの僕?


じゃあ、僕は一体ダレ……?




「テトロは私が嫌いなのか。なぜだ!こんなに尽くしているというのに!!そうか、いつもしかめ面で命令ばかりするからか……」


音だけ聞こえる。

きっと赤ちゃんの僕は眠っているんだ。


尽くしているって言われても、あんなに気持ち悪い喋り方をされちゃ。


〈いくらお父さんでも嫌だよ〉


……?




「テトロの前だと今にも壊れそうで怖いな……ロボット部分は直せても、人間部分はどうにもならないからな。それに年々、負担が増えている。なんのせいだ?」


〈ここ最近、父さんが笑っていない。こんな顔の父さんは……〉


この声、聞いたことがある。

テトロ……僕じゃないテトロだ。


あのロボット、いつからこんなに綺麗な声になっていたんだろう。始めの頃は、不協和音みたいだったのに。


声は再び、直接頭の中に響く。



もしかして僕は、君の記憶の中にいる……?




つまり君は、ずっと昔から、僕の中に……?

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