第30話 もう一つの意識
「足の指の先に錆……このままだと、ロボットのみになる。拒絶反応か……」
「治らないんですか?」
父さんっ…!!
足がおかしくなっておじさんが来た時だ。
随分時間が飛んだな……
けれど僕はこのとき、二階へ上がって行ったはず。
どうして盗み聞きなんてしているんだろう。
あれ?
僕はあのとき、二階に行って、何をしていたんだっけ。
思い出せない。
「まあ、テトロと赤ん坊を合わせる時に使った薬さえ塗れば、一時的に抑えることもできなくはないだろう」
〈お父さん、まだ気づいていないんだ。お父さんが飲み込ませたあの装置、人間テトロしか操れないってコト。お父さんがテトロを眠らせたら、この体はボクの自由だ〉
じゃあ、僕は眠っていて、君が僕の体を乗っ取ったんだ……
「私としたことが、薬が切れていたとは……薬を取りに行かせるか、父さんの倉庫に。あそこにはなぜか、いつも必要な物がある。私が行くと欲しいものが多過ぎて、薬など一向に見つからないだろう。テトロを操って、薬を取りに行かせればいい」
〈ああ、ボクが行きたい!そうしたら、人間テトロを眠らせたままにできる物が手に入るから。自由になりたい!!〉
「テトロ、そっちは違う!そっちに行けば、おまえは壊れてしまう!」
〈それはもしかして、人間テトロとの繋がりが切れる……?〉
この場所、僕の記憶にはないけれど、おじさんの言葉は知っている。
この時僕は女の人の方に行こうとしたんだっけ。
「データが届かない、か……私はまた、失ったのか。それにしてもこの装置、本当はなんのためにあったのだろう」
〈お父さんの声がずっと遠い。〉
「よう!テトロ」
〈ピンクの渦の空間が目の前にある。ここはどこ?そしてあなたは誰?
……ボク、自由だ!〉
ここは、僕が壊れかけのロボットーーもう一人の僕に会った所だ。
そして、さっきまでいた所。
……さっきっていつ?
どうやらずっと僕の中に閉じ込められていたロボットテトロの魂は、ここへ来た時に自由になったらしい。
目の前にいるのはリトーリだ。
そうか、ロボットテトロはこんなに早くリトーリに会っていたのか。
「ジユウ……!」
「そうだ、お前は自由だ!テレビロボでいつも見ていたんだぜ。助けてやりたくって、ずっと。俺は、お前の兄だからな!!」
テレビロボって、どんなロボットなんだろう。
〈ボクのお兄さん……!誰もがボクを忘れて人間テトロのことしか考えていなかったのに、この人は違うんだ!〉
「ウ、レ……シイ」
〈まだ慣れていないけれど、自由なんだ……!体の全てが、僕の意思だけで動く!〉
「いいか、テトロ。俺はリトーリっていうんだ。兄弟の中でも、お前と一番近いからな」
ロボットテトロが必死に頷こうとしている。
リトーリは頷き終わるまで、じっと待っていた。
リトーリはどんな気持ちでロボットテトロを見ているんだろう。
「他の兄弟の話をすると、一番上がモノウェ、二番目がジーロアってことになる。まぁ、俺はどっちも好きじゃないんだ」
「ド、ウ、シ……テ?」
「二人はテトロの存在を知らない。この世界に来た時、二人は兄弟という存在を綺麗さっぱり忘れたんだ。兄さんと姉さんは互いに友達のつもりらしいが俺なんかは感じ悪い、嫌われ者だ」
〈リトーリお兄さんはこんなにいい人なのに、嫌うなんてひどい。〉
ジムおじさんですら知らなかったのだから、仕方がない。
そういえばみんな、世界が壊れる前に逃げれたのかな……
僕はここでのんびりしていていいのかな?
「なぁテトロ。その体で満足するのか?もう一人のお前が持っていたみたいな、自由な体、欲しいだろ?」
〈欲しい。そしてお父さんをびっくりさせるんだ。ボクがたった一人のボクになったら、お父さんはボクをボクとして見てくれる。もっと自由に、何でもできるようになる!
でも、そんな都合のいい方法なんて、あるのかな……〉
「できないと思ったか?そんなことはない!人間テトロとずっと一緒にいたんだ。入れ替わることだってできるさ!」
【父さんの目玉焼き、食べたいな……】
〈人間テトロ……あの子にも、お父さんがいるんだっけ〉
「遠慮なんていらないだろ!今まであいつがお前の自由を奪ったんだ!」
【父さん、どうしてるかな……】
〈いつも通りボクだけがあの子の心の声を聞く。やっぱりダメなんじゃないかな。ボクはあの子の自由を奪いたくない。〉
「……このままじゃ、お前が壊れることになる。そんなの間違っている!あいつはもともと今生きているはずじゃなかったんだ!だからあいつが代わりに壊れて当然さ!」
〈そんな……壊れるのは嫌だ。〉
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