第14話 約束

「ゴメン……そうできたら最高なんだけど」


 視線を落とす僕をみて、男の子は声を明るくした。


「おまえ、名前は? あー、自分はモノウェ。似合わない名前だろ。だから、普段は名乗らん」


 モノウェ。確かに何かが違う気はする。


「テトロ、だよ」


「なるほど……」


 男の子の……モノウェのテンションが急激に下がった。


「どうかしたの?」


「あのなテトロ。この世界は見ての通り不思議だろ? そんで、物達が妙な噂をしてんだ」


「噂?」


 モノウェ慌てて付け足した。


「時々、声が聞こえんだと。『テトロ……もうすぐ、ここへ……待ってる』って」


 なんだか、急に寒くなった気がする。


 そういえば、あのロボットも言ってた。

 誰かが僕のことを待っているって。


 身震いする僕に気を使ってか、モノウェは言葉を付け足した。


「いや、どれもオンボロ機械ばっかりだから、あんまり真に受けなくてもいい。修理したらそういうことも言わんくなったし!」


「そっか……」


 けれどやっぱり、不気味だ。


 そんな僕の反応を見て、モノウェは慌てて話題を変える。


「ところでテトロ、どうやってここに来たんだ?」


 僕は喜んでこれまでの事を、モノウェに話して聞かせた。


「薬、かぁ。聞いたことがないなぁ。それに、そのロボットのことも知らんし……」


 モノウェは難しそうな表情のまま、黙り込んでしまう。

 まるで、お年寄りのおじいちゃんみたいだった。


 再びポケットの中で、スプーンが震える。


 ここでやるべき事は、終わった。

 そう促しているかのように。


 せっかく友達が出来たのに、もうお別れか。


 会ってまもないはずなのに、ずっと昔からの幼馴染と別れるような気分になった。


 それをモノウェに知られるのが恥ずかしくて、わざと明るい声を出す。


「きっとあちこち行けば、薬も見つかるよね! 色々ありがとう、モノウェ」


「いなくなんのか?! もうはや?!」


 さっきのおじいちゃんモノウェはすっかり消えて、また無邪気な子供のようになっている。


 思わず笑いながら、僕は歩き始めた。


「ちょっと待った!」


「何?」


 モノウェの顔が、スッと真剣になる。

 僕は思わず背筋をピンと伸ばした。


「一つお前に覚えといて欲しいことがあんだ。いいか、物は、持ち主に見捨てられることを恐れている。けど、本当に怖いのは、いつまでも捨ててもらえないことらしい」


 それから


「なーんてな!よくわからんだろ?」


 とケラケラ笑った。


 僕もつられて笑顔になっていた。


「次に会うときまでにわかるといいな。きっと会おうね! 約束だよ」


 手を振る僕に、モノウェは大声で叫ぶ。


「おい、絶対だぞ⁈ 約束、絶対破らせんから‼︎」




 不意に、青い空を横切った白く細い、線香の煙のようなあの光が横切ったのを、二人は気づくことがなかった。

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