第23話 フレンズ、人間

三人の周りに、沈み込んだ空気が流れた。

火がパチパチと、乾いた音を立てる。

「私の友達は、私たちを守って、人間に殺されたんです」

あの攻撃は大規模なものだったから、他にも犠牲になったフレンズがいたことだろう。

だとすれば、フレンズが人間を恨んでいても不思議ではない。

「なあ、あんた。あの攻撃は自分のせいだ、と思ってるんか」

ハヤマはヤマザキに問いかける。

「私たちが、あの時抜け出したりしなければ、爆撃などなかったはずですから」

「それは違うと思うぞ。あんた達がいなくても、あの攻撃は行われた」

「そんな情報はありませんよ、内閣府に入って真っ先に調べましたけれど、国民及び米国民、つまり私たちを守るために派遣された、という報告だけしかなかったんです」

「内部の人間でも、そのへんの情報はまだ開示されていないんかよ。だがな、機密だろうが、いくつかの公開情報や報道を突き合わせて考えりゃあわかることだぜ。あれは、ジャパリパークを試験場にした、対セルリアン戦の実験だったのさ」

実験。当時の米国大統領は、タカ派で知られた人物だった。弱腰の日本政府を恫喝し、セルリアン攻撃に踏み切ったのか。いや、いずれセルリアンが世界中に出現したり、あるいは兵器として利用されることを考え、実験したというのか。あり得るべき話だと、ミコトは思った。事実、セルリアンは現在、世界中に出現している。

「だから、あんたが気に病んでいるなら、そのイボイノシシちゃんだけのことにしときな。フレンズ全体まで背負うことはねえ」

ハヤマのぶっきらぼうな言葉に、ミコトは暖かなものを感じていた。

「それより、気になることがあります」

ミコトは交互に二人の目を見て話す。

「今、アンチセルリウムは噴出していませんよね。いつからですか?」

「衛星からの画像とLB1のデータによれば、半年前くらいです」

「世界中のアンチセルリウムの噴出が始まったのは?」

「…最初に確認されたのがサンフランシスコ、半年前だな」

ハヤマが記憶からニュースを引っ張り出したようだ。

「関連性を疑うべきでは?」

「フィルターが機能したから、行き場を失ったアンチセルリウムが世界中に噴出した、と?どんだけ距離があると思ってんだ」

「距離は…関係ないのかもしれません」

ヤマザキが、ノートPCを取り出して調べ始めた。

「サンドスターは、星の記憶だという研究者もいます。これを見てください」

画面に映るのは、赤茶けた荒野。植物はない。

「これは、火星だな」

「はい。10年前のキュリオシティの映像です。ここを見てください。ほら、この影になっているとこ」

わかりにくいが、何か虹色に光って見えなくもない。

「サンドスター?」

「恐らく。2年前、有人火星探査船に搭乗した日本人がいたのを覚えていますか」

「ああ、かなり騒がれたからな。なんでも、事故で亡くなったとか」

「彼女は、今も火星にいます」

どういうことか。サンドスターと何か関係でもあるのか。

「彼女は、最初から反乱を企てていた形跡があります。人間は着陸しないはずの第一次火星探査で、着陸実験船に乗り込み、火星に降り立ったのです。それがことの真実です。ハヤマさん、これは特ダネとして差し上げます。まあ写真やデータは差し上げられませんが」

「話だけで、どうやって記事にしろってんだ」

「彼女がそこで見たもの、あるいは見たかったもの。それがサンドスターでした。彼女はサンドスターを浴び、今なお生存しています。それは、先日火星に降り立った第二次探査船クルーが確認しています」

「いや待てよ、人間がサンドスター浴びたからって、なんの変化もないだろう。俺もあんたも、どこも変わっていないじゃないか」

「いえ。彼女は、ドクタータクマ・アイは、フレンズの素養がある人間だったんです」

「フレンズの素養?何言ってるんだ、フレンズ人間だとでも言うのか」

「ええ。そして、素養がある人間は、実はドクターだけではない」

ヤマザキは、振り返って見た。

「ミコトさんも、そうです」

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