第30話 進化

「ディープラーニングで生まれたAIは、実は既に人間の理解を超えている、ってわかりますか」

「ああ。古くは将棋とかで、人間のプロ棋士が考えもつかない手を繰り出すとかあったな」

ディープラーニングの初期段階ですら、一部では人間の思考を超えていた。

「今のAIは、低位AIであっても、その頃より遥かに高度なものになっています。もしかしたら、思考がないと言われてるセルリアンも、低位AI程度の本能的な思考をしているんじゃないかな」

セルリアンの思考。思考はしていない、単に反射に過ぎないとまで言われていたが、それは人間がセルリアンの思考を理解、認識できていなかっただけなのか。

「ああ、なんか昔、そんな小説を読んだことがあるよ。AIと同じ思考をする敵は人間を認識できず、AIを敵と捉える、とかさ」

「だから、十年前のセルリアンへの爆撃は失敗したんです。当時の爆撃機にも、攻撃補助の初歩的なAIが使われていたはずです。そして当時のセルリアンは、そのくらいの思考能力だった。その思考をフル回転させて、小型セルリアンを砲弾とする高射砲型セルリアンを生み出した」

ハヤマも、爆撃の現場に居合わせた。そして、爆撃機が堕ちていくのも見ている。

「まあ結局、セルリアンに爆弾は効かなかったんだがな」

「それでも攻撃を受けたことはわかったから、反撃したんです。その経験が、AIを敵として認識するようになった原因かも」

「人間を認識しないから、攻撃してきたのがAIだと考えたのか。認識するってことは、セルリアンとAIは、なんらかのコミュニケーションを取っているんだろうか」

セルリアンが出現したとき、妨害電波が出て通信障害が起こることは知られている。現在、ジャパリパークが電波的に遮断されているのも、それが原因だと考えられている。

「セルリアンが出す妨害電波が、実はAIとのコミュニケーションだとすれば、AIもまたセルリアンを認識していることになるな」

「そして、現在セルリアンが攻撃するAIは、十年前よりずっと高度なものです」

「セルリアンの思考も高度化してるのか。それはもう、進化じゃないか」

セルリアンが進化する。それも物理的な進化ではなく、思考の進化。どんな未来が訪れるのか、考えるのも恐ろしい。現在のセルリアンによる侵攻も、加速度的に進むのではないか。

「それに、セルリアンの思考がこのまま進化したら、いずれはLB1や人間さえも、敵と認識すると思いませんか」

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