第22話 ともだち
「アンチセルリウムの噴出は終わっていましたから、危機感がなかったのは確かですね。ここで友達になったフレンズも一緒でしたから、セルリアン何するものぞ、なんてもんでしたよ」
ヤマザキは遠い日に想いを馳せているようだ。
「フレンズと、友達になれたんだね」
「ええ、イボイノシシのフレンズでした。イボイノシシっていうとゴツそうな感じがしますけど、とっても可愛らしい子でしたよ」
「イボイノシシのフレンズなら、強そうだな」
ハヤマも興味を引かれたようだ。
「それはもう。セルリアンをやっつけるのも見たことありますよ」
ヤマザキは大きな身振りで、セルリアンを殴りつけるジェスチャーをした。
「セルリアンを倒すのを、実際に見たのか?」
「ええ。でも、どうやって倒したのかは…単に殴っているようにしか見えませんでした」
「そこ大事なとこじゃねえか!聞かなかったのかよ」
「聞いたら、なにか悲しそうな顔をして、何も答えてはくれませんでした」
悲しい。セルリアンを倒すことが、フレンズにとって悲しいことだなんて聞いたことはない。イボイノシシだけがそう感じたということなのだろうか。
「その日、私たち三人は、いつもよりちょっとだけ遠出したんです。イボイノシシちゃんは、何故か嫌がったのに、私たちは無理に連れて行きました」
フレンズには、人間にはない感覚がある。その時、彼女は危険を察知していたのか。
「案の定、私たちはセルリアンに出くわしました。しかも、3m以上はある、大きなやつです」
今なら、中型に分類される大きさだ。当時としては大型だったかもしれない。
「イボイノシシちゃんは、私たちを守って戦ってくれました。しかし相手は大きい。次第に追い詰められ、私たちに叫んだんです。逃げろ、走れ、と」
ミコトの脳裏には、イボイノシシの悲壮な顔が浮かぶようだった。
「私たちは…私とネールは、走りました。走るしかなかった。私たちは、イボイノシシちゃんを置いて逃げたんです」
ヤマザキの眉間に、深く皺が刻まれた。
「その時です、空から火が降ってきたのは。爆弾でした。米国と自衛隊の連合部隊、実際には米国空軍が主体で自衛隊は自国領土なので名目上の参加だったようですが。強力な爆弾でした。私たちを守るために、軍隊が出動したんです」
それはミコトもはっきりと覚えている。サンドスター火山を中心に、山の形が変わるほど多量の爆弾が落とされ、セルリアンを撃滅しようとしたのだ。
「結果、セルリアンは巨大化し、サンドスター火山のフィルターは破損して、ついには完全撤退を余儀なくされた…あとは皆さんが知る通りです」
「イボイノシシは?」
ヤマザキはかぶりを振った。
「恐らく、爆発に巻き込まれたのだと思います。セルリアンに食われたのなら、元の動物は後で見つけることができたでしょう。けれど、それから彼女も、動物のイボイノシシも、見ることはありませんでしたから」
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