第24話 人間、フレンズ

「私が?」

ミコトは鳩に豆鉄砲、といった顔でヤマザキを見返す。

「ええ、実はこっそり調べさせていただきました。政府の調査研究に参加していただく時に、一度食事にお誘いしましたよね」

「え、ええ。確か都心のじゃぱりカフェで」

渡航できなくなったジャパリパークを惜しむかのように、今なお客の途絶えない小洒落たカフェだ。イラストの入ったカフェラテが美味しかった。

「はい。あそこで、貴女にはじゃぱりまんを召し上がっていただきました」

「はあ。美味しかったです」

ミコトはじゃぱりまんの味を思い出す。

「あれはね、実は本物なんですよ。正真正銘、ジャパリパークのものと同じ成分のじゃぱりまんです。ジャパリパークで生産されたじゃぱりまんを、LB1の交換の時に一緒に回収しているんです」

と、いうことは。

「サンドスターが含まれてる?」

「はい。フレンズ用の高濃度のものが」

「けど、人間が食べたってなんの影響もないって」

「普通の人間には、ですね」

ヤマザキは両手を胸の前で組んだ。

「ですが、素質ある人には、違います」

「素質…」

思い当たるところはあった。

「貴女の話にあった、山姥。セルリアン人間を消滅させたという話から、素質ある可能性を考慮し、検査したんです」

「なんで山姥が消えたのかもわからないのに」

ミコトは、自分の言葉に嘘を感じていた。考えれば、答えはわかっていたのではないか。

「我々は、フレンズは、それこそ昔話の時代から人間に紛れて生活しており、そのほとんどは自分がフレンズであることに気付いていない、と考えています。そしてフレンズには、セルリアンを破壊する力がある、と」

「サンドスターがフレンズに必須なら、ジャパリパーク以外でどうやって…」

「どうでしょう。もしかしたら、人間との交配が進み、ほとんど人間に近づいているのかも。それでも、サンドスターが供給されれば、再フレンズ化する可能性がある」

フレンズが人間と交配?ジャパリパークではそんな報告はなかった。いや、敢えて誰も試そうとしなかったとも言える。倫理に関わる問題だし、無理矢理実験するなど言語道断だ。短い間でもあったから、恋愛に発展することはなかったのでは。

「交配って…遺伝子的に、フレンズはヒト化していますから、物理的には可能だとは思いますけど、そんな事例はあるんですか」

「ジャパリパークではありませんね。少なくとも、公式には。ただ、フレンズが昔から人間に紛れて生きていたなら、そして物理的に可能なら、そういうことだってあったでしょう」

「再フレンズ化というのは?」

ミコトがジャパリパークに来て、既に3日が経過している。サンドスターなら十分に浴びたのではないか。それよりも10年前、ミコトは1カ月もの間、ここで働いていた。影響があるなら、今なお人間でいるのは何故だ。

「私がフレンズだというなら、なんで今こうして人間のままなの?」

「フレンズ化、そこには意識、意思、そんなものが必要だという学者もいますし、素養にも、それぞれその強さに違いがあるのかもしれません」

「素養、ということは、他にも?」

「はい。思ったより、人間社会の中の潜在フレンズは、多いかもしれませんよ」

フレンズが潜在的に人間に紛れて生きている。それが本当なら、フレンズの定義は覆されることだろう。

「さっきから聞いていると、セルリアン駆除の方法は、もうわかってるみたいな口ぶりだな」

ハヤマが口を挟む。

「いえ、本当のところは何も。ただ、ジャパリパークで10年前に一度、セルリアン撃退に成功し、また半年前にも破壊しているのは事実です。人間の武器では倒せない以上、フレンズになんらかの力があると考えるのは自然でしょう」

「私にも、その力があると?」

ミコトはじっと自分の拳を見る。あの時、確かに何かが光って見えた。それが力というやつなのだろうか。

「そうであってほしい、これは願望ですね」

ヤマザキは時計を見ると言った。

「さて、もう夜も更けた。危険はなさそうだし、交代で休みましょう」

あたりは真っ黒な闇に包まれ、港から聞こえる波の音と、焚き火のパチパチとはぜる音だけが聞こえていた。


静寂は、長くは続かなかった。

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