第25話 襲撃
ぶおおお。風が唸るような音が聞こえた時には、既にそれは、ミコトにのしかかろうとしていた。
「!」
声にならない声が、ミコトの肺から漏れる。
僅かに身体を捻り、それの下から抜け出したミコトは、ハヤマを見た。今の時間、ハヤマが見張りにつくはずだった。案の定、彼女は寝息を立てている。
それは、ミコトの横を通り過ぎると、焚き火の炎の中に乗り上げる。
「や、ヤマザキさん!」
焚き火はあっという間に消え、それは、少しだけ大きくなったように見える。
ヤマザキがバッと飛び起き、あたりに視線を巡らした。事態は把握したようだ。
「ミコトさん、下がって」
ヤマザキは、ミコトの前に立つと、ハヤマを揺り動かした。
「う、うん?」
ハヤマは寝ぼけていて、事態を呑み込めていない。
それ、セルリアンは月明かりに青白く照らされ、こちらを振り返って、見た。
「小型ですが、我々に為すすべはない。直ぐに逃げましょう」
ヤマザキはハヤマを引きずり、後ずさる。
セルリアンとの間に、一瞬の静寂が生まれた。
「走れ!」
ヤマザキが叫ぶと、三人は一目散に駆け出した。ハヤマもよくわからないながらも、パワードスーツのサポートを受けて時速30kmで走る。
ぶしゃっ。
空気を切り裂く音がした。
「があっ」
ヤマザキが一瞬遅れて転倒する。その左脚には、セルリアンから伸びた槍にも見える触手が突き刺さっていた。
「ヤマザキさん!」
「いいから!早く走れ!」
ヤマザキは声を絞る。ハヤマが立ち止まったミコトの腕を掴み、無理矢理走らせようとする。
「人間がセルリアンに喰われたことはないだろ!だがあんたは違うかもしれない!いいから走れ!」
「だって!」
ミコトは逡巡して走れない。引き返そうとしたが、ハヤマに担ぎ上げられた。
セルリアンとヤマザキが、ぐんぐん遠ざかっていく。
「すまん、俺が寝ちまったばっかりに!すまん!すまん!」
ミコトを担いで走りながら、ハヤマは虚空に謝り続けた。
セルリアンが人を襲うなんて。しかも、確実にヤマザキは攻撃された。一体どういうことだ。ミコトがフレンズだから?いや、ならば何故最初にミコトは狙われなかったのか。あの時、セルリアンがその気なら、私は既に喰われていたはずだ。
「そうか!ハヤマさん、ストップ、ストップ!」
ミコトは担がれたまま、ハヤマの背中を叩く。
「なんだよ!今忙しいんだ!」
「わかったんです!なんで攻撃されたのか!」
「え?」
惰性でしばらく走った後、ようやくハヤマは止まった。
「早く脱いで!」
「なななんだよ、藪から棒に!」
「いいから早く!」
ハヤマがミコトを地面に下ろすと、ミコトは直ぐにパワードスーツを脱ぎ出した。パワードスーツの下はセンサー付きのボディスーツだが、それさえも脱いでしまう。
「早く!」
ハヤマも仕方なく、下着姿になった。ミコトはパワードスーツの収納ケースからスニーカーを取り出し、それだけを身につけて今来た方へ走り出す。
「ヤマザキさん、助けなきゃ!」
「ま、待てよ!」
ハヤマもミコトに倣ってスニーカーで走り出した。
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