第7話 マエジマ研究室
「ジャパリパーク の諸島は、海底火山の噴火によりある日突然生まれた、とされるよな」
マエジマ教授はミコトを前に脚を組む。
その日まで地図にも衛星写真にも、もちろん写りもしないし記載もない。
「だが、それでは辻褄の合わない点がいくつもある。例えばじゃぱり小判。人間の入植後に持ち込まれたものではないか、と言われたが、その組成や形状は、文政小判に一致する」
それはミコトも疑問を持っていた。特に文政小判の発行された時代は小判の金含有率が削減されたため、黄金色を維持するべく琥珀による色揚げが行われており、年代が特定しやすい。1820年ごろの文政小判発行とも一致した。
「江戸時代に難破した船がたまたまジャパリパーク の上に沈んだにしては、発見された範囲が広いですしね」
「江戸時代に存在した島が、その後沈み、そして再び海面に現れた。そういうことかねえ」
「それだと、琥珀成分の変質が空気中とは全く違うと思います」
ふん、とマエジマは顎に手をやって考えこんだ。
じゃぱり小判の現物はこの研究室にも一枚持ち込まれている。まだジャパリパーク が開園していたころのものだ。今では諸島には近づくことも許されない。
「もしかしたら、島ごと封印されてたってことは…ないですよね」
「物理的に、かね?まさかないない…いや、あるかもな。なにせ不思議物質サンドスターのある島だ。何があっても不思議じゃない、なんて言ったらただの思考停止かな?」
マエジマはニンマリと笑った。
「というわけで、だ。思考停止してても仕方ない。考えてもわからないことは、どうするんだった?」
ミコトは、マエジマのいたずらっぽい目に答えた。
「そりゃもう、フィールドワークあるのみ、ですよ!」
「だ、そうですよ」
研究準備室のドアが開き、スーツの人物が入ってきた。
「内閣府のヤマザキです。ミコトさん、君の不思議体験も聞いています。取材テープも一応検証しましたが改竄はなし。現場の調査も行いました。サンドスターの痕跡が残っているのも確認できました」
威圧感のある体格風貌だが、目は穏やかだ。
「行ってみませんか」
「もしかして」
「はい。ようこそ、ジャパリパーク へ」
ヤマザキは恥ずかしげもなく、芝居掛かった様子で大きく手を広げた。
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