第6話 第二次探査船
火星に降り立った探査チームは、ベースの設営を終えると探索隊を派遣した。二人だけの探索隊は、ネールの運転で露出型ローバーを時速20kmで走らせる。
赤茶けた大地、かつては水が流れたかもしれない窪地。流れる景色を眺めながら、目指すのは先遣隊のベース。本来、無人のはずのそこには、ドクターの遺骸が待っている。
「火星くんだりまで来て、見るのが死人とか、オレもくじ運がない」
レフティがボヤく。本当はくじ引きで決まったわけではない。ネールの前職が警官、もう一方のレフティが医師で、死体に慣れている。探索隊に選ばれた理由はそれだけだ。
「死体袋が、この一枚だけで済むことを願ってるわ」
そうこうしているうちに、先遣隊の着陸船が見えてきた。ベースの設営は終わっているようだ。
「さて、エアロックは生きているかな」
レフティがハンドルに手をかける。ネールはそれを制した。
「待て。何かおかしい。ベースを一周まわって見てみよう」
「わかった」
レフティは軽口をたたくことはしなかった。6ヶ月の旅で、信頼関係は出来ている。
ローバーで、ゆっくりとベースの周りをまわる。集中して見ていると視野が狭くなり、見落としが生じる。ベースの全体を見るともなく見て、違和感を探すのだ。
「あれ。窓を見て」
違和感の正体はそれか。窓に、結露がある。人間が不在の間、AIはベースを待機モードにするはずだ。冷え切った内部と外気に気温差はない。結露が発生するはずはなかった。
内部は暖かいのか?
死体をAIが、生きた人間だと認識したのだろうか。だとしたら、ドクターの死体は腐食して酷いことになっているだろう。
「腐った死体は勘弁」
ネールが首を振る。
「地球由来の細菌で、火星が汚染されていなきゃいいけどな」
エアロックの外側ドアを開ける。
内部の気圧は0.5気圧。エアロック内の気圧が同じになると、内側ドアが開いた。
船外服のヘルメットはとらない。ハードタイプで図体がでかいから、ベース内では持て余すが仕方ない。腐った死体の臭いも嗅ぎたくはない。
「システムが、生きている」
コントロールルームのコンソールは点灯し、モニタも全てついている。
「コントロールルーム、クリア。居住区、クリア。資材室、クリア。ラボは…」
ネールはそこで、言葉を失った。
ラボを映したモニターは七色に光り輝く物質に満たされている。
「ドクター!」
レフティが悲鳴をあげる。
光の中に、人の形をしたものがあった。
ラボのドアを開け、ネールが突入する。
光に包まれた彼は、生きていた。
「サンドスター…」
光の物質の名前だった。
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