第21話 異変

「当時、高校生だった私は、うちに来ていた留学生と一緒に、このジャパリパークに来ました。そこであの災害に出くわしたのです。ええ、アンチセルリウムの噴火です」

ヤマザキは、遠くに見えるサンドスター火山を見やった。

「熱も噴石もない噴火です。最初は建物に避難した私たちでしたが、なんの被害もないために、気付くのが遅れたんです。それがセルリアンの大量発生でした」

アンチセルリウム。ミコトも政府の研究に関わるようになってから知った。生命に対する反物質のようなもの、そんな理解だ。

「話題になっていたジャパリパーク ですが、さすがにここは遠い。日によっては来場者より研究者の方が多いとまで言われたものです」

「まあ確かに」

今回、三人とも飛行機ではなく船と潜水艦で来たから、旅程を思い返すと特に長かった。飛行機で来ても、通常より厳しい検疫の待ち時間を考えれば、ちょっとした海外旅行だ。

「スタッフやフレンズの活躍もあって、なんとか火山にフィルターをかけ、アンチセルリウムの放出を止めることができた、とは後で聞きました」

ヤマザキは、コーヒーで喉を潤す。ハヤマが温めた飯をかき込みながら、箸で先を促した。

「飛行場が使えなくなり、私たちもジャパリパークに閉じ込められました。ですが、高校生がじっとしていられるはずもない。仲良くなったフレンズと一緒に、こっそりと散歩していたりしました」

「散歩かよ」

「あの時、ホテルはまだ1つしか開業していませんでしたが、満室でしたよね」

ミコトは唇に人差し指を当てる。

「ああ、ミコトさんもあの時ここにいたんでしたね」

「ってことは、全員噴火を体験したってことか」

ハヤマは胡座をかいて、どこから持ち込んだのか、タバコに焚き火の火をつける。

「あ、タバコなんて、フレンズに見つかったら」

「何言ってんだ、フレンズがこんな火を囲むわけねーだろ」

一部のフレンズを除き、やはり動物としての本能を残すフレンズたちは、火を恐れるものが多い。

「あの時、俺も取材で来ていたからな。スナドリネコさんは、まだ小学生だったのかい?」

「私は、大学を休学してジャパリパークで働いてたんですよ」

「え?ミコトさん年上でした?」

ヤマザキが別のところで驚いている。

「童顔だとよく言われますけど。とにかくあの時、ゲストが三人居なくなって、パーク中大騒ぎだったんですよ」

「三人?私と友人と、」

ヤマザキは首を傾げる。

「てへっ♡」

ハヤマが舌を出した。全然可愛くない。

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