第33話 カコ博士

「サンドスター火山の噴火を止める、だと?馬鹿も大概にしろ。あんなもの、人間ごときの手に負えるもんじゃない」

お手上げだ、とカコ博士はおどけたポーズをとる。

「ですが、止めなければ人類は滅亡するかもしれないんですよ」

「人類など、そうまでして、自然の理を壊してまで守らねばならないのか?」

「そんな…」

ミコトの知るカコ博士は、人類愛に溢れた人だった。今回カコ博士の同僚たちに聞いても、口々にそんな言葉が出てきた。だが、ここにいる博士はどうだ。退廃的な空気を纏って、人類の絶滅をこともなげに言う。

「で、でもっ」

「ふっ、悪かったな。少しいじめたくなった」

カコ博士は少し笑った。

「あのー、なんでこんな山の中にいるんすか」

ハヤマは横から口を挟む。

「ここなら電気も通ってないし、AIも何もない。セルリアンも来ないから、人類の最後を眺められるだろう?」

「はあ」

「とにかく、人類にサンドスター火山の噴火を止める方法なんてない。あのフィルターだって、我々人類の作ったものじゃあない」

「え?フィルターってカコ博士が開発したって」

「私はただ、預けられただけさ。フィルターの力を最大限に発揮できるようなシステムは構築したがな」

「預けられた…」

四神に、だろうか。

「では、もう私たちは絶滅するしかないと?」

「まあ待ちなさい。人類には、と言っただろう?」

カコ博士はニヤリと笑った。

「フレンズなら、或いはな。まずはデータを見せてくれ」


カコ博士は10年ぶりに対策室を訪れた。データに目を通し終わったのは、それから3日後のことだった。

「ふう」

溜め息をひとつついて、満足げにコーヒーカップを口に運ぶ。

「ど、どうですか」

ヤマザキたちチームであたっても1か月かかったデータ解析を、下地はあるとはいえ、僅か3日で終わらせたカコ博士は流石の天才だといえる。

「そうだな、細かな検証は必要だが」

全く寝ていない筈なのに、カコ博士に疲れた様子はない。むしろ意気軒昂だ。

「喜び給え、人類は救われた」

「おおっ」

一同からどよめきが起こる。

「どうすればいいんですか!」

「なんだってしますよ!」

研究チーム、政府職員チームそれぞれが色めき立つ。

「いや、既に救われた、というのが正しいな」

私は寝る、と言うと、カコ博士は仮設ベッドに飛び込み、あっという間に静かな寝息を立てた。

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