第28話 火星、地球
「火山の噴火、ですか、ドクター?」
「ああ、もちろんマグマ火山じゃない。サンドスター火山、さ」
サンドスター火山。地球ではジャパリ島だけで確認されている。火星にもサンドスター火山があるというのか。
「火星と火山といえば?」
「そりゃ、オリンポス山でしょう。太陽系最大の火山だ。死火山だと思われていましたけど、近年の研究では240万年前に噴火してるらしい、と」
「そうだ。そしてその噴火は、地球のサンドスターと連動していると、私は考える」
相変わらず、想像に想像を重ねた考えにしか思えない。とても科学者の思考とはいえない。
「240年前、地球では何が起きたと思う?」
「…さあ。降参です、ドクター」
ドクタータクマは、かすかに笑みを浮かべたようだ。あれが笑顔というのならば。
「猿人からホモ族への進化、脳の大型化だよ、ネール」
「ああ、それね」
聞いたことがある。何かの授業だったか、テレビの科学番組だったか。
「確か、250万年前から石器を使うようになって、肉食が始まったから脳の容積が増えたんじゃなかったかな」
「ああ。勉強熱心なのは好きだよ。実に好感が持てる。さて、奇跡の存在なしにも生命は生まれ、進化し、ヒトになった。ある意味、奇跡の存在を一つづつ消して行くのが科学者なのかも知れないね」
確かに、奇跡があったと考えた方がロマンティックではある。クリスチャンをとっくにやめたネールも、ロマンは残っていて欲しいと思う。
「だが、奇跡はやはりあった。事実、240万年前の地層から、サンドスターの痕跡が見つかっている。サンドスターは厳密には物質ではないから、痕跡は研究の進んだ最近まで検知できなかったし、サンドスターの研究者はどっちかといえば量子力学出身と動物研究出身が多く、地学とは隔絶していたからな。地層の研究などしてこなかったのだよ」
それは初耳だった。ドクターの話が本当なら、火星のサンドスターが地球に飛んで来たのか、それともなんらかの連動をして、地球でサンドスター火山が生まれたのか。オリンポス山の高さは25000m。エベレストの3倍だ。裾野に至っては550kmもある。そのため、山といっても平地と大して変わらぬ傾斜しかない。窓から見えているはずだが、地球の山とは印象が全く違う。
この超巨大で平坦な山が、サンドスター火山。こんな光景見ていると、ネールはそれが真実であってもおかしくないと思えて来た。
「さて、この山は240万年ぶりの噴火をしようとしている。兆候は明らかだ、ここにあるサンドスターがそれを物語っている」
ドクターの周りのサンドスターは、いっそう輝きを増したかに見えた。
「サンドスターは星の記憶だ。そして、星々はコミュニケーションをとりあっている。火山の噴火は、しばしば第二宇宙速度を超え、宇宙を旅する。物質ではないサンドスターなら尚更だ。十年前の地球のサンドスターが火星のオリンポス山を目覚めさせ、太陽系は連鎖的に240万年ぶりにサンドスターに包まれるだろう!星々は記憶を交換し合い、再び人類を、生命を変えて行くのだ!ははははははは!」
「狂ってやがる…」
ネールには、もはやドクタータクマが人間ではない別のものにしか見えなかった。
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