第27話 ラッキービースト
「これが、フレンズ化かよ…」
ハヤマが見上げたミコトは、まるで重さを失ったかのように頭上に静止していた。その頭から生えた翼は、羽ばたいているわけではないようだ。
ミコトはすいっとハヤマの上空を一周すると、ふわりと降り立った。
戦いは終わった。危険がなくなったからなのか、身体から光が発散すると、ミコトはもとの姿に戻った。そう、下着姿だ。
「きゃっ。てまあ、女しかいないし、いいか」
かさっ。葉ずれの音がして、ミコトは前を隠しながら振り返った。
「誰っ」
危険な感じはしない。暗闇の中、青い光が二つ、ぼうっと光る。
「アーカイブチュウ、アーカイブチュウ」
「わっ」
ハヤマが後ずさる。ミコトたちの視線の先には、LB1がいた。
「記録…?き、記録中止!やめやめ!やめてLB1!」
ここには女だけだが、島には回収部隊もいるし、この映像が研究者に知れ渡るかも知れない。さすがに裸を晒したくはないし、ミコトがフレンズ化するというのは、恰好の研究材料だろう。
「オキャクサマ、オキャクサマニハ管理権限ガアリマセン。アーカイブ継続シマス」
さっきまでLB1の姿を見ることはなかったのに、なんでいきなり記録されているのだろう。
「もう、やめなさいよ!」
ミコトはLB1のカメラを手で覆った。
「ミ、ミコトさん、収納ポーチに管理者タグが」
ハヤマに止血されたヤマザキが、痛みを堪えてパワードスーツを指差す。
ハヤマがポーチをひっくり返すと、色鮮やかな鳥の羽根飾りがいくつか落ちて来た。
「赤と青を身につければ、管理者権限が得られます。くっ」
ヤマザキは時折苦痛に顔を歪めた。止血したとはいえ、出血量が多かったし、血管や筋肉、神経を傷つけているかもしれない。一刻の猶予もなかった。
「ほれ、ミコト!」
ハヤマが羽根飾りをミコトに手渡す。ミコトは少し考えて、羽根飾りをパンツに挟んだ。ハヤマはブラに挟む。なんか悔しい。
「管理者権限ヲ確認シマシタ。ハジメマシテ、僕ハラッキービースト。ジャパリパークノ管理システム端末ダヨ」
「ラッキー、回収部隊に緊急連絡。怪我人がいるの、至急後送要請します!」
ラッキー。その名を呼んだのは10年ぶりだ。ジャパリパークで働いていた、懐かしいあの日々。ミコトはたくさんいるLB1の中の1体にラッキー、と名付けて可愛がっていた。あれからもう10年、あの個体は既に回収されてしまっただろうか。それとも、まだここで働いているのだろうか。
「緊急連絡、確認シマシタ。回収部隊ヲ検索シマス。検索、検索」
しばらくして、ラッキーは再び話した。
「回収部隊ヲ検索シマシタ。連絡済ミデス」
2時間後、三人はヘリに回収されることになる。
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