第3話 落日
人類がじわじわと追い詰められつつあるのは、事実だ。
今週に入ってからも、小規模ながらも、世界中で既に4つの噴出が確認され、それぞれの近辺ではセルリアンが目撃されている。
セルリアン。未だ正体不明の怪物だ。最初に発見された個体の色がセルリアンブルーだったため、そう呼ばれるようになった。
「今度はコロンビアか」
セトグチは資料に目を落とす。今朝届けられた最新版だ。
内閣府異常災害対策室は、前身の南海新諸島対策室から引き継がれる形で、室長不在のまま稼働していた。
世界中で増えるサンドスター・ロウの噴出、それは火山の有無、地形に関わらず、今のところなんの関連性類似性を見出せないまま続いていた。
我が国でもそれは例外ではない。滋賀県で噴出したサンドスター・ロウは周囲の人工物のいくつかをセルリアンに変異させ、多大な被害を今も出し続けている。
セルリアン自体に意志や思考があるのか、そもそも生物といえるのか、それすらわかってはいない。
セルリアンが直接人間を襲うことはない。少なくとも、今のところはそうだ。
しかし、セルリアンは人類のインフラを破壊し、成長する。今、一番大型の個体は体長20mを超えている。そして成長限界は未だ不明だ。
合衆国では軍による掃討作戦が展開されたが、結果セルリアンの成長に力を貸しただけだった。
爆発のエネルギーさえも吸収するセルリアンには、人類の武器は役に立たない。
核による殲滅も検討されたが、人的被害が出ておらず、選挙も近いこともあり、見送られた。
テルミットや燃料気化爆弾も使われたが、膨大な自然破壊を引き起こしただけだった。
しかし、消極的ながら効果はあった。セルリアンの破壊には失敗したが、周囲の人工物がなくなったことで、セルリアンの成長・進行が止まったのだ。
この結果から、日本でも対応策は防火帯の設置、すなわちセルリアン近隣の家屋や鉄道などの撤去だった。
「ですが、これはやはり消極的な対応策と言わざるを得ません。セルリアンを破壊できない以上、セルリアンが発生するたびに防火帯を設置する、焦土作戦に過ぎないからです。いずれ人類の生息域は逼迫することでしょう」
セトグチは首相にわかりやすい言葉を選んで説明する。
「見通しはあるのかな」
「今のところは、まだ。ただ、例の島のサンドスター火山に設置されたフィルターは、サンドスター・ロウをフィルタリングすることができるようです。セルリアンの駆除はできなくとも、予防にはなるかと」
「うん。それで、フィルターの製造は」
「残念ながら、カコ博士の失踪により、製法は失われています。現在、フィルター試作時の製造業者に残された資料を集めているところですが、肝心なところが抜けております」
「ふむ。原理もわからないのかね」
「残念ながら」
優秀な科学者グループを動員して、フィルターの再現に尽力してはいるが、たった一人の天才に敵わない。カコ博士が研究資料を全て破棄して失踪した理由はわからないが、まだ相当な時間がかかることは間違いない。
「それまでは対症療法で時間稼ぎをするしかありません」
「そうか。また支持率が下がるな」
やれやれ、と言いながら首相は官房長官を呼んだ。セトグチも同じ説明をもう一度しなければならない。
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