第11話 おとぎ話

「大学では、なんの研究を?」

エンジンを切ったゴムボートは、特殊部隊員の手漕ぎで川を遡上している。河口からまだいくらも入っていないから、川幅は広い。

「民俗学です。特におとぎ話を専門に、歴史的事件ではなく、当時の暮らしや文化を研究するんです」

「へえ、そりゃ楽しそうだ」

つまり、政治や経済など、現実とはなんのつながりもない道楽か。

「あ、いまなんの得にもならないお遊びだと思ったでしょう。まあ私もそう思ってたんですけどね」

ボートは川岸に巧妙に隠された桟橋に着いた。

「どうやら人類の存亡に関わるらしいですよ」

上陸部隊員たちは、銃を構えて周囲を警戒しているようだ。

「人類の存亡とは、話が大きくなったな。今、存亡とやらに関係するとしたら、セルリアンか」

「ええ。人類の武器がセルリアンに効かないどころか、巨大化させちゃうって話は話は知ってる?」

「俺は報道だぞ、放送できない話も入ってくる。だから自衛隊どころか世界最強の米軍も、セルリアンを殲滅できず、遠巻きに眺めてるってな」

桟橋は岩場につながっている。ゴっ、と岩が擦れる音がしてすぐ、意外なほどスムーズに岩に偽装された扉が開いた。一行は薄暗いが、最低限の照明のされた通路を歩いていく。

「うん。だけど、ここジャパリパークでは、セルリアンの数は増えていない。それどころか、最近では巨大化セルリアンの殲滅に成功したそうよ」

本当なら興味深い話だ。ハヤマも、わずかに残った報道屋の血が騒ぐ。

「フレンズがやったというのか?」

動物の能力を持ちヒトの数倍の力を持つとはいえ、銃や大砲、爆弾でも倒せないセルリアンを倒せるなんて考えられない。

「それと民俗学に、なんの関係があるんだ?」

「実は、世界中にフレンズがいる、としたら?」

「なんだと?」

フレンズは、ジャパリパーク諸島の突然の出現と、サンドスターによって動物たちが変異したものだ。ジャパリパーク の外に出たフレンズが、

サンドスターを失って元の動物に戻ってしまうという噂も漏れ聞いている。ジャパリパーク以外でフレンズが存在できるはずがない。

「サンドスターなしで、か」

「正確には、むかし話に登場してきたということなんだけど。ほら、日本のむかし話にも、よく動物が登場するでしょう。猿蟹合戦、因幡の白兎、文福茶釜、浦島太郎、鶴の恩返し。海外でも、動物をモデルにした神様とか多いし。アヌビス、セベク、アピス、ビシュヌ、グリュコーン、ガネーシャ。日本ではお稲荷様や狛犬、シーサーとかかな。それらは、実はフレンズを描いているんじゃないか、と」

そんな、証明しようもない、それこそおとぎ話

を聞かされても困る。

「私は実際に見たんです。フレンズ…いや、セルリアンなのかな。ヒトではないものを」

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