第19話 英雄譚

ヒグマの話は尽きることがないかのように続いた。

「かばんは、サーバルたちを引き連れ、我々セルリアンハンターが太刀打ちできなかった大型セルリアンを、知恵と勇気でついに追い詰めた。セルリアンは光を追うしゅーせい?があるのだそうだ。火を扱えるのがかばんと私だけだったから、火でセルリアンを海にゆーどう?したんだ」

セルリアンが光を追うというのは、各地の被害調査でも知られた習性だ。しかしフレンズたちがそれを利用して、セルリアンを誘導することを考えるとは。少なくともミコトは思ってもみなかった。

「かばんは身を呈してサーバルを助け、自らはセルリアンに食われたんだ。まさに英雄的行動だ。私はその場面は見ていないが、無力だった…セルリアンハンターなどと名乗っておきながら、なにもできなかったのさ…」

ヒグマは、悔しくてたまらないように唇を噛み締めると、突然ポロポロと涙をこぼした。

「ぐすっ。なにも…何一つできなかったんだ…」

「ヒグマさん…」

「そんな時だった!」

ヒグマは急に立ち上がると、大きな身振りで叫んだ。

「そこに現れたのは!島中のフレンズたちだった!かばんと触れ合った者たちが、かばんに救われた者たちが、かばんの危機を知って、駆けつけたのだ!」

ヒグマの目からは、涙が滝のように溢れては落ちた。号泣である。

「博士の号令のもと、強き者は爪で、牙で、弱き者もそれぞれの得意な技で、セルリアンを削っていった。皆が一体となり、群れとしての力を見せたのだ!」

ヒグマは手にした武器を振り回した。

「だが、ようやく救い出したかばんは、光の卵になってしまっていた…」

セルリアンに食われたフレンズは、記憶を失い、もとの動物に戻るという。そうなっては、もうどうしようもない。

「間に合わなかった、誰もがそう諦めた。だが、サーバルだけはかばんの名を呼び続けた。かばんちゃん、かばんちゃん、と何度も、何度も」

ヒグマは涙を拭った。

「奇跡だった。光の卵はその姿をかばんに変えたんだ。きおく?も失ってはいなかった。そう、あれは奇跡以外のなにものでもなかった」

ヒグマは、何か神々しいものを見るように手を合わせ、遠くを見ていた。

「そしてセルリアンは退治されたのだ」

「え?」

肝心なところが抜けている。どうやってセルリアンを倒したのか。

「い、いや、どうやってセルリアンを倒したんですか?」

ナマケグマ、ヤマザキが慌てて聞く。

「あー、どうだったっけな。とにかくかばんは凄いんだ。あいつは本当にえいゆー、だった」

どうやらかばんの印象が強すぎて、肝心なところを覚えていないようだ。

「だがもう、かばんはいない。この島は、我々セルリアンハンターが守ってみせる!いつかかばんが戻ってきた時に、自慢できるようにな!」

ヒグマの目は、闘志に燃えていた。

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