第17話 フレンズというもの
「フレンズって、なんだと思う?」
Dr.タクマはネールたちに問いかける。火星では、ベース内まで乾燥しきっているように思え、ネールはむせた。
「そりゃ、サンドスターによってヒト化した動物、ですかね」
タクマの血液を採取しながら、ネールは答えた。生きているとはいえ、健康状態やサンドスターとの干渉状態など、調べることは山ほどある。
じきにキャプテンたちも来ることになっていたが、それまでに調べられることは調べておきたかった。
「ふん。じゃあ質問を変えよう。フレンズは、生命だろうか?」
「えっ?」
あまりに当たり前のことを言われ、ネールは混乱した。フレンズが生命でなくて、いったいなんなのか。
「生命の定義とはなんだ?」
「えーと、外界と自己を隔てる膜を有している。自己複製能力を有する。代謝による生命維持機能を有する。だったな」
「うん。さて、フレンズはどうだろう。外界と自己を隔てる膜、これは皮膚もそうだが、けものプラズムというものを有するから是、だ。代謝はどうかな。食べ物を食べて活動するし、サンドスターも必要としているな。これも是」
ここまで言われて、ネールにもわかった。
「フレンズは、増えない?」
考えれば単純な話だ。物理的な生殖機能の有無はともかく、現実にフレンズの子供が生まれたという事例はない。それどころか、一つの種のフレンズは一人しか存在しない。生命としての最大の目的である繁茂を、最初から捨てているとしか考えられない。生命という定義から外れるウイルスでさえ、他者の力を借りてまで増殖するというのに。
「ちょっと待ってくださいタクマ、フレンズが生命じゃなかったら、いったいなんなのでしょう」
タクマは少し顔を歪ませた。笑っているのだろうか。
「私はね、こう考えるんだ。少しはフレンズ化した今なら実感もあるよ。フレンズとは、記憶なのだと」
記憶。フレンズが生命ではないなんて、ネールは考えたこともなかった。
ネールがフレンズを見たのは、まだハイスクールのころだ。交換留学生として短期留学した日本で、ここだけは行っておきたいのがジャパリパークだったから、ステイ先の同級生と行ったのだ。懐かしい顔を思い浮かべながら、ネールは尋ねた。
「記憶ですか。フレンズとは、過去だと?」
「もちろん、それぞれのフレンズたちは、自分の生を一所懸命生きているだろうし、喜怒哀楽だってちゃんとあるさ。だけど、フレンズという存在は、まるで本のようじゃないか。増えることもなく、なにかを生み出すこともない。ただ、読むことはできるのさ」
ネールは、タクマの言葉に釈然としないものを感じていた。
「あんなに生き生きとした彼らが生命じゃないというなら、きっと生命の定義が間違ってるんですよ、ドクター」
ネールにとって、精一杯の抵抗だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます