第36話 都市伝説
私は、東京で、フリーランスのライターをしている。日本にある都市伝説を求め、記事にしているのだ。
そして私はある都市伝説(その都市伝説とは現世に伝わる妖怪らしい)を耳にし、今、信州の山奥にある村を訪れている。
(都市でもない荒廃した村なのに都市伝説とはこれはいかに)
そう思いながらこの地に降り立った。
過疎化が進み、この村でも空家が目立っていて荒れ果てた家が何軒か垣間見えた。
私はこの村を起点に辺りを散策することにした。
そこで私は畑を耕す、第一村人を発見した。そのおじいさんは手拭いをほっかぶりして鍬で畑を耕していた。そして私は例の妖怪について尋ねることにした。
「あのー。すみません」
「何かのう?」
「ここら辺に、妖怪が出ると聞いたのですが、何かご存知ないでしょうか?」
私がそう尋ねると、その村人は柔和な顔で曇らせてこう呟いた。
「さぁー。俺は知らねーな」
そして、その村人は何もなかったようにまた畑を耕し始めた。
「そうですか。ありがとうございました」
私は手当たり次第、見つけた村人達にも話を聞いて回ったが、皆、その話題をすると、表現を曇れせ、知らないと答えるだけだった。
私は仕方なく、ビデオを回しながら人気のない場所を選んで、再び辺りを散策することにした。
もうすぐ日が暮れる。
私はどこか懐かしさを覚える夕焼けを見ながら郷愁の想いに駆られていた。と、そのときである。私の肩をトントンと叩くモノがあった。
私は恐る恐る振り向こうとすると、人差し指が頬にめり込んだ。そしてその怪しげなモノはこう言った。
『なんかようかい』
私は突然の出来事に驚き戸惑いながら、こう切り出した。
「いったいなんの冗談ですか。あなたは誰なんですか?」
私はそのモノの正体を確認しようと振り向いた。が、そこには誰の姿も見当たらなかった。辺りを見回しても人影らしいものは見当たらない。
(いったい今のはなんだったんだ)
そう不審に思いながら、気を取り直して散策を続けることにした。
秋の冷たい風が頬をすり抜ける。
夕日に伸びた孤独の影が私をじっと見ているような気がした。ふとした寂しさを覚え、物思いに耽っていたときだった。誰かが、また私の右肩を叩いたのだ。私は意を決してすぐさま振り向いた。しかし、何も見当たらない。すると次は左肩を叩かれた。私はすぐさま後ろを振り向く。やはり何も見当たらない。
(一体何なんだ)と思っていたときだった。
何処からともなく『なんかようかい』と声がした。
「こっちが聞きたい。私に何の用があるんだ。隠れていないで姿を現せ!!」
私は大声を張り上げた。
しかし、私の怒鳴り声は虚空に消え、周りはシーンと静まり返っていた。私は声の主を確かめるために付近をくまなく調べた。草むらに怪しい気配は感じられない。しばらく探し続きえたが、人どころか草木までもが妖艶な気を放つかのように思えて、背筋に悪寒が走った。
私は気力を使い果たし、恐怖心に勝てず、村へ戻った。そしてそこから十キロ離れた、隣町に車で移動して古ぼけた旅館に泊まることにした。
その旅館は私以外泊まり客はいないらしく、私を案内した女将もどこか影があり、こんな所にほんとうに客が泊まるのかと思う感じのカビ臭く、寂れた旅館であった。
私は気分転換にすぐさま風呂に入り、素朴な料理を囲んで日本酒をちびちび呑んだ。そして早く床につくことにした。布団に入ると昼間の疲れからか急に眠気が襲い、深い眠りについた。
その夜のことである。私は耳元に息を吹きかけられたような感覚を覚え、目を覚ました。辺りは不気味なほどに静かで窓からは街灯の光が見えるだけであった。
私は言い知れぬ恐怖を感じ、布団を頭から被った。
すると私の耳元でこう声がした。
『なんかようかい』
「ヒィ。別になんも用事はありません。ごめんなさい」
私は恐怖に駆られ誤っていた。
『えっ。待って。そっちがワタシをずっと探していたんでしょ』
「えっ。なんのことですか?」
私は恐る恐る聞いた。
『だからワタシはなんども、”なんかようかい”って聞いたんだけど』
「はあ?」
私は恐る恐る布団から顔を出した。するとそこにはなんと私と瓜二つの人物が座ってこっちをジーと見ていた。
「わっ。わっ。わっ。わー」
私は叫んでいた。
『ねー。だからなんかようかい』
「いえ、あなたに用はありません。今すぐ帰ってください」
『じゃ、ワタシと一緒に行こう』
「えっ? いったい何処へ?」
『次のワタシを見つけに』
「えっー!! どういうこうと?」
そのあとの記憶はない。
それから私は自分探しの旅に出た。
そして私はもう一人の私を探すかのように、『なんかようかい』と聞いて回っている。
『くれぐれも”なんか妖怪”という妖怪は探してはいけない』と、この都市伝説をまとめた本には書かれてある。
私はその都市伝説を確かめるために、信州の山奥へ旅立った。
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