第32話お金は天下の回し者
「お金は天下の回りものというが、うちには全然回ってこない。最初にこの言葉を言った人は私の前で土下座して欲しい」
私は日々、そんなことばかり考えていた。
私の兄はフリーターで、「世界は俺中心に回っている。なぜかって。俺の中に眠るダークエネルギーの封印が解かれればこの世界は終わりなのだからな。フフフフフ」と、独り言を言っては厨二病をこじらせている。
父は最近リストラされ、毎日酒ばかり飲んでいて酔いが回ってきたと言ってはテレビを付けっ放しで寝てしまう。
母は週三日のパートをこなし、毎日あくせく家事をこなしている。
ある日、私は小学校で、毎日同じ服を着ていることを同級生の男共に揶揄われた。
悔しくいき持ちが抑えきれず、私はある行動に出た。駅前で犬の真似をしてお金を貰おうと考え付いたのだ。
私は超身体が柔らかく、犬が後ろ足で頭を掻く仕草を真似できるのだ。私が犬の動作を真似してさんべん回って『ワン!』と鳴くと、通りかかる人が興味本位で立ち止まって見てくれた。そして私は思いっきりの笑顔で「お金ちょうだい」と言って掌を差し差し出した。みんな最初はキョトンとしていたが、そのうちの一人が小銭を私の掌にそっと置くと次々と小銭が持ちきれないほど私の小さな掌に置かれた。そして私はそのお金を豚の貯金箱に入れた。
次の日も、その次の日も、駅前で同じことをしていたら、評判になり、どんどんお金が集まるようになって行った。
そんなある日のこと、誰かが警察に私のことを話したらしく、両親は警察に呼び出されるはめになった。
その日以降、私は駅前で犬の真似をしてお金を稼ぐことが出来なくなった。
私が落ち込んでいると、父は一言こう言った。
「美香。そんなに身体が柔らかかったんだな。どうだ中国雑技団に入らぬか」と真面目な顔をして私の肩をポンと叩いた。
後ろに立っていた母が鬼の形相でスリッパを父の後頭部めがけて『スパーン!!』と思いっきり叩いた。
「すまん。今のは冗談だ。これからは俺も頑張って職見つけるよ」
次の日から父はハローワークにせっせと通い始めた。
兄はというと、私に一連の犬の真似をさせ、その動画をせっせとユーチューブに上げており、今ではユーチューバーとして活躍している。
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