第33話世界の中心で必殺技を叫ぶ!!

 祐輝は師匠の元で、ここ十年間、血の滲むような努力を重ねてきた。そして祐輝は師匠から最終奥義を習得するまでになっていた。

 祐輝は川原で、その究極奥義を日々練習していた。心を無にし、呼吸を整え、拳を岩に叩きつける。岩はその原型を止めることもなく木っ端微塵に砕け散った。

 そんなある日のことだった。師匠が「これが最後の試練だ。わしに勝てば免許皆伝を授ける」と言って祐輝に決闘を申し込んできた。

 

 そして師匠と祐輝の壮絶な対決が始まった。風を切り裂く疾風怒濤の攻撃の応酬。お互いの拳圧が波紋のように広がり相手めがけ衝撃波となって周りの空間が乱気流のように荒れ狂う。

 そしてほんの一瞬の間をついて祐輝は師匠に教わった最終奥義を繰り出した。

「スーパーインフェルノデンジャラスアタックー」と、叫んだそのときである。祐輝は急に視界が真っ暗になり倒れこんだしまった。

 気がつくと傍らに腕組みをした師匠が立っていた。

 祐輝は一撃で師匠に斃されていたのだ。

「わしは、究極奥義を教えたが、その名称は何も語っておらん。そもそもその究極奥義自体名前などない。いったいどういうことだ。このざまは!!」

「だって、必殺技を叫ぶときかっこいいんだもん」

 祐輝は頭を掻きながらちょっと誇らしげに言った。

「必殺技を放つときに技の名前を叫べば、敵に隙を与えることになる。しかも他のものに自分の居場所まで教えてしまうことになる。それでも叫ぶのか?」

「はい。だって漫画ではよく叫んでいるでしょう。なんか画になるなーと思って」

「おまえは破門じゃ」

 そう言った師匠の後ろ姿は哀憐に満ちていた。

「し、師匠ー!!」

 祐輝は項垂れた。そして頭の中が真っ白になった。

「それでも、俺は必殺技が叫びたいんだー!!」と、訳も分からなくなるほど渾身の力を解放し、祐輝は叫んでいた。

(な、なに! こやつの気がとんでもなく上がっていく。どういうことだこれは!!)

「わかった。おまえがそこまで言うならもう一度チャンスをやろう。後日、改めて死合をしよう。死を合わせると書いて死合じゃ。心して掛かれ」

「はい!!」

 後日、同じ場所で死を合わせると書いて死合が行われた。

「ゆくぞ。覚悟はできているな」

「はい。師匠」

 空が風雲急を告げるかのように、急に入道雲が立ち込め、突風が吹き荒れた。

「うをー!!」

 祐輝は渾身の力を込め、師匠に拳を繰り出し、そして師匠の攻撃を柳のようにしなやかにかわした。

 師匠は息ひとつ乱れず、呼吸をするかのように鋭く重たい拳を繰り出す。祐輝も負けじと今まで培ってきた全ての力で応酬した。

 雷鳴が遠くで轟く。

 そして睨み合いが続き、祐輝と師匠は一寸たりとも動かなくなった。

 祐輝は丹田に気を集中し、明鏡止水の境地になった。

 そして、呼吸を深く吸い、必殺技に移行しようとした瞬間のことだった。

「天武鳳凰龍虎飛翔けーん」

 そのとき地を震わすほどの雷鳴が轟き、雷が大木に突き刺さった。

「う、うぅぅぅ……」

 死合は決した。

 祐輝は天を仰いでいた。その頬には雨が大粒の涙のように伝わる。

「み、見事だったぞ祐輝。これでおまえは晴れて免許皆伝じゃ」

「し、師匠。ありがとうございます」

 去りぎわ、祐輝はほくそ笑んだ。

 それを見た師匠はこう呟いた。

「謀られた……」

 ガク。

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