第10話いろんな意味であかんオカンや
ある日おかんが瓶の蓋が開かないと俺に開けてくれと言ってきた。
「たくっ、しょうがねーな」
そう言って俺は瓶の蓋を開けようとしたが、いくら気張っても一向に開く気配すらなかった。
「こういうのは、お湯を掛ければ開くんだよ」
そう言って俺は瓶の蓋にお湯を掛けた。これなら開くだろうとタカを括っていた俺の心は木っ端微塵に砕かれた。どうやっても開かないのだ。そしてまた瓶の蓋にお湯を掛け、再度チャレンジしたが一向に開く気配はなかった。
「こんちくしょうー。なんなんだよこの瓶は!!」
その後何度も同じことを繰り返しが一向に瓶の蓋は動く気配すらない。と、そのとき俺はおかんの不敵な笑みを見た。俺は直感した。これは何かあるなと。
「こりゃ、ダメだ。びくともせん。ところでおかん」
「なんや?」
「この瓶の蓋を開けられたら、一万やるぜ」
「はぁ? なんであんたがうちに一万もくれるんや」
「俺は、諦めた。が、しかしこの瓶の蓋が開くところを見たみたいんや。どんな手を使ってもいい開くところをこの目で拝んで見たい。ただそれだけや。だから一万なんて惜しくもない」
おかんは暫く沈思黙考したあとこう言った「わかった。うちが開けたところ見せたるぅ」
「ただし、条件がある」
「なんや?」
「絶対にこの瓶を割ってはいけない。瓶を割ってしまったら元もこうもないからな。それと自分一人の力でその瓶の蓋を開けること。わかったな」
おかんは暫く黙ったあと「わかった」と言って瓶を手にした。そのあとからおかんと瓶の壮絶な戦いが繰り広げられることとなる。
俺はなるたけおかんが瓶の蓋と格闘するのをこっそりと観察することにした。
そんなある日、おかんがいつものように瓶の蓋と格闘していると、ぼそりとこんなことを呟いた。
「こんなことなら瓶の蓋に瞬間接着剤を塗るんやなかったわ。そしたら瓶の蓋が簡単に開けられて一万円はうちのものになったのに……」
(やっぱそういうことだったのか。っていうかそもそも俺を貶めるためにそんなことをしたんやろ。瓶の蓋を接着剤で止めなかったら、一万円をやる話の流れにならなかったやんけ。ほんま、おかんは頭のネジ一本飛んじゃっているんじゃないのか?)
それ以降もおかんと瓶の格闘は続いた。
俺は自分が騙されたことよりも、だんだんとおかんが哀れに思えてきた。
あれから一月が経った今でも「あかん。あかん」と言いながらおかんは瓶の蓋と格闘していた。
ほんと、あかん。おかんや。
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