第37話 お年玉

正月が過ぎ、正月気分がやっと抜け切れた頃のお話。

僕は来年受験生であり、将来の自分に対してなかなか答えを見つけられないでいた。

そんなある日、僕は冷え込んだ空気の中を身を縮めながら学校に向かって歩いていた。そしたら、最近、近所に引っ越して来た小学生の男の子が「もうーいくつ寝るとお正月〜」と歌っているのを目撃した。

僕は心の中でクスリと笑い、よっぽど正月が楽しかったんだなと、ほのぼのした気持ちで中学校に向かった。

そして次の日も、ちょうどその小学生とすれ違ったときのことである。その小学生はまた「もうーいくつ寝るとお正月〜」と歌っていた。

僕は気になってその子に「なぜお正月が過ぎてしまったのに、その歌を歌っているの?」と聞くと、その小学生はこう答えた。

「ぼくのお小遣いはお年玉だけなんだ。だから正月が待ち遠しくてしょうがないんだ」

「そうなの? それはちょっとかわいそうだね」

僕は心なしかその子に同情した。いくら何でもお年玉だけで一年のお小遣いが決まってしまうとは理不尽だと思ったからだ。

「ちなみにここだけの話、お年玉いくら貰っているの?」と僕は聞いて見た。

すると……。その子はこう答えた。

「うんとね。百二十万円」

「えっ、今、なんつった」

「だから、百二十万円だよ。お兄ちゃん」

「ヒャ、ヒャ、ヒャくにじゅう万円!?」

「そっ。だから早く正月がこないかなーと、今から待ちわびているの」

僕は心の中で思った。

(百二十万円てなんだよ。月に十万円づつ渡せばいいだろ。ていうか小学生が月十万円のお小遣いってなんだよ。まず苦労しているアニメーターさんに謝れよ)


僕は心の中で今起きている現実を受け入れられず。そういえば今日の夕飯なんだろうなと頭に思い浮かべて現実逃避をし、更に、大人になって髪の毛が薄くなったら、”現実逃避”したくなるだろうな”トウヒ”だけにと訳のわからないことを思い受けべながら、その場を後にした。


そして家に帰り、ふと財布の中身を確認した。財布の中には百二十円しか入っていなかった。

僕は自分の将来を考えた。考えれば、考えるほど虚しくなった。

ふと窓の外を見ると雪が降っていた。そしてふと涙がこぼれた。

(って、なんでやねん!! なんでこんな感傷に浸らなーあかんねん。こんな理不尽な世の中作ったのいったい何処のどいつだよ!!)

僕は心の中でなぜか関西弁で理不尽な世の中を嘆いていた。

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