第20話堕天使
ある日、空を見上げていたら羽が生えたおっさんが目の前に落ちてきた。
僕は自分がどんな状況に置かれているのか理解するのに苦しんだが、相手はもっと苦しんでいた。
「君のマナを分けて欲しい」
羽の生えたおっさんは僕に対して右手を突き出して苦しそうに呟いた。
そう言われた僕はさらに戸惑い、その場から逃げ出したくなったが、瀕死の人を置いて逃げるわけにはいかない。
僕は恐る恐る聞いた。
「マナってなんですか」
「精神エネルギーだよ。それを私に少し分けて欲しい。なっ。この通り頼む」
「分けるって言われてもどうすればいいか、僕にはわかりません」
「両手を私にかざし念じるのだ。傷が治りますようにと」
僕はこの状況をどうすることもできず、言われた通り、羽が生えたおっさんに両手をかざし念じた。すると羽の生えたおっさんの傷はみるみるよくなり立ち上がることが出来るようになった。
その一方、僕はどっと力が抜けて、その場にへたり込んでしまった。
「少年。よくぞこの私を助けてくれた。褒美になんでも一つ願い事を叶えてしんぜようぞ」
僕は今の状況を理解しようと、羽の生えたおっさんに質問した。
「そもそもあなたは誰なんですか? どうして羽が生えていて空から落ちてきたんですか?」
「少年。よくぞ聞いてくれた。私の名前は天使ルシファーだ。空を飛んでいるとき、よそ見をしていて不覚にも戦闘機にぶつかってしまい、それで地上に落下してしまったのだ」
僕はルシファーという名前を聞いたことがあったが、はっきりと思い出せないでいた。
「さぁ、少年。なんでも願い事を言え」
僕はへたりきった身体を塀に預け、しばらく考えた。
やっぱ、一生使い切れないほどのお金かなと考えて、そのことを伝えようとしたところ、おっさんの羽の色が白から黒に変わり始めていた。どういうことだろうと僕は思ったが、僕は今考えていた願い事を口にした。
「一生分の使い切れないほどのお金が欲しいです」
「ワハハ。ちっぽけな願いだな。どうじゃ、この我輩とこの世界を征服してみないか。そうすれば望みのものが全て手に入るぞ」
「いや、僕はそんな大それたことは考えていないです。ただ、一生分の使え切れないほどの金が欲しいだけなんです」
「我輩も伊達に天使などやっていない。そんなちっぽけな願い事で我輩が満足するとでも思っておるのか」
僕は先ほどの羽の生えたおっさんの変わりように戸惑っていた。羽は完全に漆黒の闇を纏ったように真っ黒になっていて、目つきは鋭く、そして目尻は完全に釣り上がっていた。そのとき僕はルシファーという名前にピンときていた。そうだ天界から追放された堕天使の名前じゃなかったっけ。別名サタン。伊達に天使などやっていないっていうか堕天使そのものじゃないか。僕はこんな羽の生えたおっさんと対峙していたなんて一体どうしたらいいんだ……。
「ごめんなさい。願い事はどうでもいいです。もう、帰ってください」
僕は涙ながらにそう嘆願した。
「そういうわけにはいかぬ。天使の名誉にかけても、貴様の願い事は叶えるぞ」
そう言った堕天使ルシファーの姿には牙が生え、大きな角が二本生えていた。
僕は思った。いや、もう天使じゃねーし、その姿はサタンそのものじゃないか。
「貴様の願い事は世界征服だな」
「いえ、断じて違います」
睨みを利かしたサタンの迫力は半端なかった。正直失禁するくらい僕は追い詰められていた。
そしてしばらくの沈黙が二人の間に流れた。
「よし、返事がないということは、世界征服で決まりだな。さて少年よ。これから忙しくなるぞ。我輩が全力でサポートするから安心したまえ。何も問題はないぞ」
ヒェー。そんな、問題大ありなんですけど……。ていうか自分の都合のいい風に話しを持っていってるんですけど……。
そして僕はやけくそでこんな言葉を言い放った。
「それよりも、先に魔界を征服したほうがいいんじゃないですか」
その言葉にしばしの静寂が訪れた。恐ろしいほどの静寂だった。
「ふむ。確かに、貴様のいう通りだな。まずは魔界を統一せねばなるまい。少年よ。ありがとう。貴様には何から何まで世話になったな」
僕はその言葉にホッとした。この状況からようやく抜け出せると思っからだ。
「では、一緒に参ろうとするかの。少年よ」
「へっ?」
その後、僕はサタンと共に魔界を征服することとなった。
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