第14話お姉ちゃんのニャンニャンな話

 僕の耳は左耳が異常に発達していて、左耳の方がよく聞こえるのである。一年前、おたふく風邪をこじらしたあとからだ。あとで調べてわかったことだが、ひどいときは突発性の難聴になるとのこと。僕はなぜかわからないが耳が良くなったのである。このことは家族の誰にも言ってない。なんとなく言わない方が色々都合がよいと判断したからだ。

 ある日、お姉ちゃんが彼氏を二階にある自分の部屋へ招き入れた。お姉ちゃんが彼氏を家へ連れてくるのは初めてであった。

 僕は、今、灘校を受験するために猛勉強をしている真っ最中だ。僕は神童と呼ばれ、両親の期待を一身に背負い、幼い頃から勉強に勤しんできた。

「もう、タカシったらくすぐったいんだから、足をくすぐらないで、欲しいニャン」

 ニャン? 

 僕は聞き耳をたてた。まさに左耳をお姉ちゃんの部屋の方へ向けて、利き腕ならず、聞き耳をたてているのだ。言い忘れていたが、お姉ちゃんの年齢は二十七歳である。はっきり言おう、お姉ちゃんは僕を自分の子供のように面倒を見てくれた。その恩義はすごく感じている。

「もう、だからやめてよー。くすぐったいじゃニャイ。今、隣の部屋で弟が受験勉強してるから勘弁して欲しいニャン」

 また語尾にニャンをつけている。

「弟さん。どこの学校受けるの?」

「ニャダ校」

「ニャダ校?」

「そうだニャン」

 ペキ!!

 僕は持っていた鉛筆をへし折った。

 灘校を舐めるなよー。

 心の声が溢れ出しそうだった。

「そんでねー。弟は昨日、ニャンダースの鉛筆を買って来たの」

「へー。すごいんだね」

 ニャンダースってなんだよ。風が強い中、自転車で十キロある文房具屋まで行って一ダース買ってきたんだよ。ついでに消しゴムもな。

「そっかー。じゃ、ぼくたちも勉強しよっか。じゃー、ぼくが問題を出すから答えてよ」

「わかったニャン」

「いくよ。オーマイゴットを日本語に訳すとなんて言う?」

「うーん。ニャンてこったかな」

「うん。正解」

 ニャンてこったってなんだよ。ちょっと笑ちゃったじゃないかぁー。

「そんじゃ次いくよ。ケンタッキーおじさんの本名は?」

「うーん。うんとね。カーネルニャンダース」

「ぶぶー。本名はハーランド・デーヴィッド・サンダースって言うんだ。ケンタッキー・カーネルという名誉称号からカーネルサンダースって呼ばれるようになったんだ」

 彼氏、何気に物知りなのか。

「タカシって物知りぃ〜」

 そこはニャンは付けないんだ。なんか阿呆らしくなってきた。

 うんざりした僕は耳栓をして再び勉強に集中することにした。

 一時間後、僕は耳栓を外し、背伸びをした。すると隣からお姉ちゃんと彼氏のイチャイチャしてる話し声が自然と耳に入ってきた。

「ほんと君は可愛いね。ぼくの天使ちゃんだよ」

「うん、もう〜。ターくんたら、そんな目で見つめちゃ、いやニャン」

 そこはぼくの子猫ちゃんだろ。と、僕は心の中で突っ込んでいた。

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