第15話合コンの話

 とある研究施設に勤める男共が店の前で話し込んでいた。

「女子、全員の名前が『みどり』なんて、すごい偶然だね」

 今日の合コンに集まる面子を黒川から聞いて青山は驚いた。他、三名も驚いている。

 幹事の黒川は鼻が伸びそうなくらい得意げな顔をした。

「さぞ、女子もこれには驚くだろうな」

 青山は感嘆仕切りに呟いた。

「さっき、おまえ偶然と言ったけど、これが偶然じゃないのさ。SNSで『みどり』と言う名前の人を片っ端から声を掛け集めたのさ。俺の人脈を侮るなよ。しかも可愛い子ばっかだ。まさに、よりどりみどり。なんちゃって」

(まさかそれが言いたかった為に、わざわざ集めたのか……)

 青山は少し引いたが、可愛い子ばかりということで、興奮していた。

 五人は予約していた居酒屋の座敷に座った。

 やがて居酒屋の座敷の席に女子がポツリポツリと集まり出した。最後の子が到着するまで、幹事の黒川が女子をもてなすように話を盛り上げていた。

 最後の一人が到着すると、皆、乾杯のビールを掲げ、乾杯をした。

 それから自己紹介が始まった。いよいよだな。黒川の目はキラリと光った。

 まず、男性が自己紹介をし、次に女子が挨拶をする番になった。それぞれ自己紹介をしていくと、皆がみどりと名乗るので、全員が自己紹介を終えたところで、女子は顔を見合わせた。

「すごーい。こんな偶然があるんだね」

 一人のキャピキャピした子が喋ると、女子たちはは黒川の方を見た。

「驚いた? そう、俺様の人脈を」

 黒川は親指を立て自分を指した。

「ワァー。すごいね。黒川くん」

 黒川は有頂天だった。

「さぁー、選べ。よりどりみどりだぞ」

 黒川は青山に耳打ちするように小声で話した。

「お前の人脈には、はっきり言って脱帽したよ。しかも、みんな可愛い子ばかりだし」

「ところで、みんなの名前がみどりだけど、それぞれなんて呼べばいいのかなぁ」

 みんなが見惚れるほどのナイスバディをした女子が質問した。

「それなら、苗字で呼ぶしかないよね」

 一番の後輩の赤井が口を挟んだ。

「そうよね。初対面だし、だいたい苗字で呼ぶわよね。ごめん」

 そう言って、彼女は頭に拳を軽く叩く真似をしてチロっと舌を出した。

 幹事の黒川は「ごめんだなんて、そんな謝ることないですよ」と言って頬を赤らめた。

 しばらく酒の席は盛り上がり各々が楽しんでいたが、途中から雲行きが怪しくなってきた。

 なぜか女子みんなが赤井だけに食いついているのだ。

「赤井くんて、かわいい」

「赤井くん。趣味は?」

「へーそうなんだ。赤井くんカラオケよくいくんだ。カラオケに行ったら赤井くんの歌、聞きたいな」

「赤井くん。ラテアート描けるのすごいね」

「赤井くん。理系なの? 私、理系苦手だからほんとすごい」

「おい。どうすんだよ。この現状。俺たちだって理系だろ」

 黒川は青山に愚痴をこぼした。そして残り二人の男共は職場の愚痴を言って、くだを巻いていた。

「お姉さんたちもほんとう素敵な方ばかりで、僕、緊張しちゃって、うまく受け答えできなくて、ほんとごめんなさい」

「そんなこと気にしないで〜」

 女子は赤井に釘付けだった。

 そうして赤井は潤んだ目で上目遣いをした。

「おい。どうして赤井は女子でもないのにあんな目をすることができるんだ。しかもあいつ、ほんとうに緊張しているのか?」

 黒川はちやほやされている赤井を見て愚痴った。

「僕に聞いてもわかりませんよ」

 青山は熱燗片手にチビチビやっていた。

「なぜ、奴をこの合コンに連れてきたんだ?」

「一人ぐらい見栄えのする奴を連れてこないと、皆しらけて帰っちゃうじゃないですか。だから仕方なく連れてきたんです」

「うーむ」

「選べとは言ったが、肝心なことを忘れていた。俺たちは選ばれる方だということを」

 幹事は肝心なことを忘れていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る