第30話草野球での悲劇

それは草野球をしているときの出来事だった。

僕は今でもその時のことを思うとゾッとする。

ショートを守っている先輩の股間に打者の強烈なボールが吸い込まれるように当たてしまい、先輩がその場に踞ってしまった。

ナインはしばらくして立ち上がらない先輩を呆然として見つめていた。セカンドを守っていた僕は先輩のところに駆け寄り、ボールが地面へ溢れていない事を確認した。

そして玉と玉を混合しないように、(キンタマというのも直球すぎると思い)『睾丸無事ですか?』と言おうとしたところ、「厚顔無恥ですか?」と言ってしまった。

先輩は苦悶と怒りに満ちた視線を僕に向けた。

もちろんその後、先輩にひたすら謝ったが、先輩はエラーをしたあと、何かにつけて「俺は厚顔無恥だからな。厚かましく恥知らずだから大丈夫だ」と僕に言うようになった。

草野球を辞めた今でも、先輩の苦悶と怒りに満ちた顔を、僕は今でも忘れることが出来ない。


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