第34話 ラップを刻もう

 会社で上司にパワハラを受け、俺はイライラが溜まり、うさを晴らす為にスナックで一人、お酒を飲んでいた。

 お酒を口に運びながらも、怒りが収まらなく、舌打ちを繰り返しながら貧乏ゆすりをしていた。

 周りから見れば嫌な客だろう。だが、日頃のストレスも溜まりに溜まった俺は苛立ちを隠せないでいた。

 そんなときだった。俺の少し離れた席にいた真面目そうなスーツに身を包んだサラリーマンらしき男がカラオケ用のマイクを握りしめ立っていた。だがカラオケはいっこうにに流れてこない。

 何やってんだと、俺はそいつを見て苛立ちを覚え、さらに舌打ちをした。

 すると、そいつは俺の舌打ちのリズムに合わせるかのように、突然ラップを刻んできたのである。

『俺の人生、虚しい人生。ひとりイライラ舌打ちしてる〜。ひとりでイライラ貧乏ゆすりしてる〜。イエーイ。俺の人生、納得いかねー、ことばか〜り。だけどイラついてばかりじゃ、楽しめなーい。俺の人生、楽しんだもの勝ちー。チェ、チェ、チェ、チェ、リズムに乗って楽しむ、俺〜の人生。イエーイ』

 俺は何が起きたのかわからず、ぽかんとしていると、そいつは俺にマイクを向け『イエーイ』と口元に差し出す。

 俺はなんだこいつと思いながら無視して酒をあおった。

 そしたら彼は舌打ちをし出し、そしてリズムに合わせ脚を震わせた。

『カモーン』

 そう言って彼は自分の真似をしろとジェスチャーで示した。が、俺は小っ恥ずかしくて目線を外し無視していたが、だんだんと彼の舌打ちするリズムが早くなっていった。

 その舌打ちにイライラしていると、彼はこうラップを刻んだ。

『理不尽だらけな、この世の中。でも、捨てたもんじゃないぜ、この世の中。歌おーぜ。忘れよーぜ。色んなことを吹き飛ばせー!!』

『イエーイ』

 俺も思わず『イエーイ』と叫んでいた。なぜだかわからない。ただ、俺の今の気持ちを代弁してくれたと思ったからだ。

 『こんな世の中、笑い飛ばそうぜ、イラついた心、リズムに乗せて吹き飛ばそーぜー!!』

 そして俺は酔っ払った勢いからか彼とハイタッチをし、親指と人差し指を立たせ、『イエーイ』とポーズを決めていた。

 帰り際、俺は舌打ちをしながら『チェ、チェ、チェ、チェチェチェチェ、チェキラッチョ』とラップを刻みながら店を後にした。

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