第35話ロシアから来た留学生
私はある私立高校に通っている。結構、地元では名門で偏差値が高く規律正しい高校である。
ある日のことだった。私のクラスにロシアからの留学生がやってきた。
先生に連れてこられたそのロシアからの留学生は背が高く、金髪で彫りの深い美男子だった。
クラスは一斉に騒ついた。特に女子は目をハートにして、彼に熱い視線を送り続けた。
教壇に立った先生は隣にいる留学生を横目でちらりと見て咳払いをした。先生は独身で眼鏡を掛けている地味なタイプだけど、私から見ても可愛いタイプの先生だった。
「えっと。ロシアから来た留学生を紹介します。えっと、彼はロシアから来た留学生で……」
先生は緊張しているのか、同じことを繰り返し喋っている。
一人の男子が見かねて「彼はなんて名前なんですか?」と尋ねた。
すると先生は大きく息を吸ったかと思うと、今度は顔を赤らめ、こう言った。
「イヴァン・マンコチェフ・フルチンコさんです」
先生の声があまりにも小さすぎたので、さっきの男子が「先生―。もっと大きな声で言ってくださいと言った」
先生は意を決したように、黒板に『イヴァン・マンコチェフ・フルチンコ』と書いた。
教室は一瞬、大きくざわめいたが、その後、シーンと水を打ったように静かになった。
そして、ロシアから来た留学生は、ロシア語と覚えてきたであろう片言の日本語を交え自己紹介をし、頭を下げた。
皆は顔を見合わせどう反応してよいかわからないでいた。数人の男子は笑いをこらえるのに必死で、女子はさっきまでの白馬の王子様を見るような視線を机に向けて俯いていた。
その後、皆は彼のことをイヴァンと呼び、彼の学校生活もだんだん慣れていった。
そして一年後、彼の留学が終わる時がきた。彼は片言ながらも日本語がうまくなり、最後の挨拶に先生と並び、教壇に立った。
「それじゃイヴァンさん。ご挨拶を」
そう先生に促されて彼は挨拶を始めた。
「ワタクシハ、コノガッコウノクラスニ、リュウガクデキテホント、ウレシカッタデス。タダ……。ニホンデハ、ワタクシノナマエ、ハズカシイ……。デモ、ミンナ、ヤサシカッタデス。ホント、アリガトウゴザイマシタ」
そう言ってイヴァンは目に涙を浮かべた。
女子生徒もつられて涙している。
そして彼はロシアへ帰って行った。
十年後。同窓会が開かれた。
皆、懐かしがり、大いに盛り上がった。そのうち誰かが、イヴァンのことを口にした。皆、懐かしいさに話が盛り上がったが、酒が入っていたせいか、話すたびに誰となく笑いが堪えきれなくなり、皆、腹を抱えて笑った。
私は「彼に失礼よ」と言いながらも、笑いを堪える事に必死だった。
その日、家に帰った私は、もし私が彼と結婚することとなったら、どう両親に伝えるのか、ふとそんなことを考えてしまい、腹を抱えて大いに笑った。
次の日、私のお腹は筋肉痛になっていた。
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