鴨檻先生暴行事件での暗躍#07

 ホームルームが終わる。顔を伏せるふりをして横目であの二人の様子を伺う。僕の特技である「ジツハコッソリミテール」だ。ネーミングセンスに関しては放っといてほしい。滝梨も大江も静かに先生の話を聞いている。このクラスの大多数は、怒られてさすがにおとなしくしてる、と思っているだろうが僕ら三人は、これが嵐の前の静けさというものかと感じていた。僕は静かに顔を上げ、脈拍を数える。

「おし、それじゃあ帰ろう」

 大越先生がそう言うと学級委員が「起立。帰りの挨拶」と言い、速やかに皆が散っていく。今は部活動の仮入部期間なので見に行く人が多い。そんな中僕はあの二人が教室を出る前にさっさと体育館方面へ向かう。なんとか見学に紛れ込んで怪しまれないように。教室を出る前チラッと見たら、大江と滝梨は何かしゃべっていた。そして由香と大輝と雄治の三人は帰りの準備をしていた。三人なりに怪しまれないようにしているようだ。

 僕は体育館を使う部活の見学に行く人たちと別れ、さらにその奥へ向かう。堂々としていれば多分怪しまれないだろう。僕は体育館と武道場の間の狭いスペースを通り抜ける。すると少し広い場所がある。きっとここのことだろう。僕は壁に寄っかかってあの二人を待つ。意外と来ない……。そう思って狭いスペースから校舎や駐輪場がある方を見ると、駐輪場の影に由香、大輝、雄治の三人がいるのがチラッと見えた。僕はもう少し隠れるようジェスチャーをする。三人は僕の視界からいなくなった。すると大江と滝梨がやってきた。できるだけ冷静に冷静に……。そう思うがなかなかうまくはいかない。

「や、やぁ」

「やあ、じゃねえだろ」

 大江がそう言って笑う。また嫌な笑い方……。

「なんであの時こっちを見てたんだ?」

 そう言ってポケットに手を突っ込む滝梨に冷静に答える。

「言ったとおり時間わr──」

 正確には答えようとした。すると突然男女一人ずつがやってきた。男子生徒は僕らのことなんか無視して女子生徒に何かを話しかけ、そのまま奥へ向かう。そして男子生徒が何かを喋ると女子生徒は困ったような表情をしているのが僕の視力でも分かった。これは……まさかの告白?由香すごい……。

「ちっ。近くに人がいるから場所を変えるぞ。ニイクロダ、ちゃんとついてこいよ。あとイソギンチャク三人も一緒に連れてこい」

「それを言うなら腰巾着な」

 そう言って笑う。僕はイラッとした。由香、大輝、雄治を僕の腰巾着呼ばわりにしたことに。生まれて12年と7ヶ月、初めて僕は自ら喧嘩を始めた。

「ふざけんな!!!!あの三人は僕の腰巾着じゃない!!」

 そう言って目の前の大江に飛びかかる。しかしそれを交わされ僕は地面に落ちる。

『健人!!!!』

 と叫ぶ声が聞こえる。

「あらあら心配されちゃってんぞ?あいつらがお前の腰巾着じゃないならお前がつきまとっているのか〜?」

「ストーカー?ヤバいやつだろ」

 そう言ってまた笑う。僕がまた飛びかかろうとして体を起こした瞬間──。

「俺たち四人は信用できる仲間だ!!誰かが誰かにつきまとってるわけでも腰巾着になってるわけでもない!!」

 いつもは冷静な大輝が顔を真っ赤にして怒る。

「逆にお前らこそ周りに人がいたらできない、弱っちいやつだろ!!」

 雄治も

「小学生の頃から見てきたけどねぇ、あんたたちいい加減にしなさい!!自分のことしか考えずに、人に迷惑かけるばっかで最近は普通に暴力なんかふるって。そういうやつはね、自分の心に負けてる、っていうのよ!!」

 由香も怒っている。僕は冷静になって言う。

「そもそもなんで目を合わせただけで呼び出すんだ?そんなこと言ったらお前らと喋っちゃいけないのか?」

 大江と滝梨は黙る。そして口を開いた。

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