第二走者:鴨檻先生暴行事件での暗躍

鴨檻先生暴行事件での暗躍#01

 その日、教室に入るといつもうるさいクラスメートたちがさらに騒がしくなっていた。夏のセミにでもなったのだろうか……。

 とりあえず、隣の席の由香──端末由香、に騒がしい理由をそこはかとなく聞いてみる。

「おはよ〜、由香」

「あ、新黒田くんおはよう!!」

 由香はクラスの中では一番、いい意味で女子っぽくない女子だろう。なぜなら誰とでも同じ態度で接する。つまり裏表がないのだ。僕がこれまでに出会ってきた女子はほとんど、裏表があるような気がする。僕としてはこういうさっぱりとした態度の人の方が接しやすいのである。

 さて、理由を聞かねば……。

「なんか……騒がしいね。なんでだろう」

「あ〜、なんか昨日の放課後先生と生徒で暴力事件があったんだって〜。しかも生徒の方はうちのクラス」

「えっ?誰?」

「大江くんと滝梨くんらしいよ〜」

 大江──大江和治と滝梨──滝梨悠梨は小学生時代相当荒れていて、今も様々な問題を起こす問題児だと言う話を大輝から聞いたことがある。

「なんかやらかして先生が手を出したのかな……」

 そう呟いた。すると由香が全力で首を振るのが風の流れで分かった。

「ちょ、由香。扇風機いらないから!!」

 由香は髪の毛がとにかく長くまとめると鞭のようになる。なのでいつも後ろ髪を真ん中あたりで折り返して、先の方と根元を一緒にまとめている。その結果首を振ると二倍になった髪が扇風機のように風を巻き起こすのである。そのことから僕は由香が首を振ることを「扇風機」と呼ぶ。本人が面白がっているからまあいいのだろう。

「いや、実はさ……大江くんと滝梨くんが鴨檻先生を殴ったらしいよ」

「か、鴨檻先生が!?」

「あの人、言っちゃあいけないけど、弱そうだもん」

「た、確かに……」

 鴨檻先生は40歳を過ぎてもまだ独身で「彼女募集中」だと言うことを堂々と言っている先生だ。優しそうな見た目で実際優しいのだが、逆に弱いということでもあり、独身生活を続けているそうだ。

 それにしても生徒が先生を殴るとは……。嫌な世の中になったもんだねぇ。

「ちょっ新黒田くん、何おばあさんみたいなこと言ってんの〜」

 あ……心の声が漏れていたか……。


 続く

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