──のためいつだって僕は全力で走る

音槌和史-おとつちまさふみ-

中学一年生

プロローグ

プロローグ

 俺は走るために生きている。そう思う時がある。

 小さな頃から、町の陸上チームで練習をし、地域の小学生陸上競技記録会では三位に入ったこともある。俺が入っていた陸上チームは小学生以下のチームだったが、近くの中学校には陸上部があった。将来への希望を持って全力で走っていたその途中、俺の走りは止まった。目の前が真っ暗になった。

 それは、転校。地方銀行に勤める父親が今の県北部にある支店から、県南部の支店への異動が決まったのだ。両親はとても仲が良いので、単身赴任などという選択肢は端からないようだ。それだけなら、なんとか我慢できる。しかし、もっとも俺を悲しませた事実、それが転校先の中学校に陸上部がないことだった。ネットで調べてみたところ、近くに陸上のチームもない。俺は途方に暮れた。

 あと一月半で卒業、そしてこの町を離れるという頃、俺は決心した。

 転校先の中学校で陸上部を作る。

 それがどれだけ難しいかを分かっている、つもりである。第一に、誰が走るのが好き、得意なのか分からない。第二に、そもそも部活を作れるかどうかも分からない。

 でも、俺はやるんだ。作れなかったときのことなんてまだ考えなくていい。ただ全力で走るだけなんだ。

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