第14話 キャラクターの口調に関する問題への私見
【Q】
キャラクターに「リアルでこんな喋り方する奴いねえよ」と言いたくなるような口調で喋らせることに抵抗はある方ですか。無い方ですか。
【A】
拙作に目を通していただけると一目瞭然ですが、ほとんど無い方です。
そもそも「リアルな口調」とはなんぞや? ……と一旦考え出すと泥沼にはまってゆくタイプなので、その辺は完全に割り切ってあからさまにキャラキャラした口調で喋らせることがわりと多いです。
しばらく前、近況ノートの一覧で「キャラクターに変な口調や変な語尾をつけてキャラ付けするのはありやなしや?」といったような疑問を呈してらっしゃる方をお見掛けしました。
キャラクターの口調にはげしい癖をつけることをキャラ付けにしてもよいものか、それは手抜きではないのか? そのような安易な手法をとらずに描写その他でキャラクターの個性をみせなければならないのではないか? 等々……といった内容だったような。うろ覚えですので細部は間違っているかも。
こういう問題はなかなか難しいですよね。
そこからきっかけでつらつらと考えてみた私見のようなものです。
先に既に述べていますが、口調でキャラ付けすることにほとんど抵抗が無い方です。ずるいとも手抜きとも思わず、わりと積極的に採用しています。
というよりもむしろ、「キャラクターの背景考えたら自然に口調にだって各々差が出てくるだろ!」という派です。大人しいキャラクター、活発なキャラクター、それだけでもやっぱり違う。その差異を考える作業が結構好きだということもあります。
そんな喋り方リアルじゃない! そんな口調で喋る奴はこの世に存在しない! などともし言われたら「魔法を使うような奴らがいっぱい出てくるパラレルワールドが舞台の小説をたくさん書いてるヤツに『そんなのリアルじゃない』って言われても……」と返す他ないです。
とはいえ、マンガやアニメっぽい作品にしたいなら思いっきりマンガっぽいいかにもキャラキャラした嘘くさい口調にしたり、現実世界を舞台にした特に不思議なことが起こらない物語なら実生活で耳にしても違和感がないような口調になるよう気をつけたり……といった作品の雰囲気に合わせた口調の強弱は意識しております。
それと、会話文のみが続いても誰と誰が喋っているのか迷子にならないように実は結構気をつけている点は全作共通しております――あれでも、一応(その辺が成功しているかどうかは読んでいただいた方それぞれに判断していただくほかありませんが)。
キャラづけのために口調のクセを強めにするとか、そんなの手抜きではないか、キャラクターは地の文で描写してナンボではないかという方もいらっしゃることと思います。
地の文で表現することも大事ですが、でも会話もバカにできたもんではないですよ。結構やりがいがあるものですよ……。
たまにモブキャラのキャラ付けが間に合わなかったりするときは口調に安易なクセだけつけて対応することはあります。そういうのがあざとい、わざとらしいというご意見に対しては真摯に反省したいです。
口調でキャラ付けするのに抵抗が無いのは、私が地方在住で方言を使用して喋るのでごく自然な標準語の会話というものがよくわからないことも大いに関係しているかと思われます。
普段使っている話言葉でない言葉で文章を書くということがまず、ある意味「文章を書く私」みたいな一つのキャラをかぶっているようなものですよ。
一つキャラを被っているのだから、その上でさらに何個キャラを作って被ろうがとくに抵抗が無い、なんならちょっとどれだけ自分がキャラを作れるか挑戦してみたくある……そんな気さえしてくることもあります。作品によっては変な一人称のキャラとか変な語尾のキャラとかも用意することもありますね。
(方言で会話をするような地域にお住いの方ならお分かりいただけると思うのですが、小学校の国語の授業で「方言含む話言葉を作文に使用してはいけません」といった指導がなされると思います。ですので早い段階で、「喋る自分」と「文章を書く自分」では別個のものである、あるいは「文章で書かれる自分とそれを書く自分は違う」……という感覚を早い段階で意識する方も少なくないのではないかな? と考えるのですが、いかがでしょうか)
(この辺を追求するとどう考えても言語学やら文学の専門家のお話を聞かなければいけないような難しい領域につっこんでいくことになり、はっきり言って手に負えませんのでこの辺で終わらせます)
ところでこの場を借りて訴えたいのですが、方言話者が標準語圏で暮らす人々の自然な口調や会話を文章のみで表現するというのは実は結構難しいものなのですよ……。
いかにもテレビアニメのキャラクター、テレビドラマの登場人物といった口調は頑張れば習得できるとは思います。
でも、いわゆるその辺の人がごく普通に使う「リアル」な口調を表現するというのはかなり難しい。本当に難しい。たとえば街角で聞こえる市井の人々の自然な会話を実際に耳にしたがごとく文章で再現するというのは骨が折れる。21世紀日本女性の話言葉で「~よ」「~だわ」が不自然であるという知識はあっても、実際にあまり耳にする機会がない「リアル」な口調を再現するのは難事業です。
故に、どうしてもメディアを通じて得た会話などを参考にせざるを得なくなり、その結果虚構くさい口調になってしまいますしね、地方住まいであっても「ドラマやアニメなどで交わされる会話は所謂リアルなやつではないな」ということくらいはわかるんですが……。
そのため、現実世界を舞台にした物語を作る場合の時は「なんか不自然だな〜リアルじゃないな〜」と悩んでも結局開き直らざるを得ないという面もあるのでした。
以下は宣伝
とにかくキャラクターをいっぱい出してみたい! という目標を掲げている作品であるため台詞だけで誰が喋っているかわかるようにキャラクターの口調も敢えてキャラがかなりきついものにしている現連載作がこちら。イメージとしては、シルエットだけで誰がだれだかがわかる「遊戯王」の登場人物くらいにしたかった……。そんなわけで、変な一人称のキャラや変な語尾の奴も平気で出してます。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054885611315
特に不思議な現象も起きない現実世界が舞台なので、極力現実に寄せて口調のキャラ付けを抑えてみた作品がこちら。「標準語圏のリアルな口調と会話とは……?」という問題に頭を悩ませた一作でもあります。超常現象も魔法も何もでてこないほのぼのホームドラマな作品ではありますが、私の書いた中で一番マジカルでファンタジーな小説だと思います。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054884170280
私が普段喋っている口調がどんなのか興味のあるモノ好きな方向けの作品がこちら。これに出てくる鬼娘の方言が近いです(これをベースに現在住んでいる地方の方言が混ざってちゃんぽんなことになってます)。一応方言話者として、キャラクターごとに個性が出るようこだわっていました。作品の出来そのものには悔いが残りますが、そこはなかなか頑張れたのではないかなあ……と。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054884507931
以下は蛇足
似たような問題に、「どうして洋画や海外ドラマの女性は吹き替えになると『~よ』『~だわ』といった今現在の日本人女性が普通喋らないような不自然な口調でしゃべるのか」といった問題が噴き上がったりする現場をたびたび目にします。
この件に対しては「確かにリアルな口調とは思えないけれど、海外の女優さんと日本の声優さんの演技が合わさった吹き替え版では『~よ』『~だわ』ぐらい嘘っぽい言葉の方が却ってしっくりくるのでアリだと思う。むしろその辺の女の人が自然につかうようなナチュラルな口調では画面に負ける」というのが私の意見です。
ただし人種や民族のステレオタイプを煽るような吹き替えは流石に今日考えるべきだと思います。ラテン系の人は妙に馴れ馴れしくフランクな口調だったり、田舎のおじいさんは誰彼構わず「わしは~じゃ」みたいな口調になっていたりするのとかは、流石に今日日やっぱりね……。
この問題は、口調でキャラ付けする手法を採用する者はこれから頭の中の目につく所にでも置いておかないといけないことだと思います。
蛇足の二
作品で嘘くさい口調で喋らせることに抵抗がなくても、実生活上で実際にフィクションぽい喋り方をする人を見聞きすると「エッ⁉︎」となる方です。そっちにはかなり抵抗があります。
現実と虚構の線引きはきっちりしておきたい性分が勝るのか、「話し言葉」の世界に「書き言葉」が混ざると混乱するのか。おいおい考えてみたいテーマではあります。
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