第15話 カクヨムに登録して大体一年経ったという報告とホームランが打てたという手応えはなかなか手放せぬという話 

【Q】

 2018年6月末でカクヨムに登録して1年になるという話ですが、その活動を振り返って思うことがもしあれば。


【A】

 ・物語を完結させられると気持ちがいい。

 ・手と頭さえ動いていれば、少々不細工でも物語は終わらせられる。

 ・「こんな話は自分には作れない」と思っていても、やってみたら案外なんとかなったりする。

 ・コンテストに投稿するとタイミングがよければとりあえずは読んでもらえる。ただし読者選考を通過するかどうかは難しい。「どうせ通過しないし~。にぎやかしだし~。記念応募だし~」と予防線を張っていても本当に通過しないとそれなりにダメージは食らうのでPV目的でのコンテスト投稿は精神状態が良い時にした方が無難。

 ・書いて発表してみてわかったことだが、異世界転生・転移ものほどではないにしても魔法少女モノというのはweb小説界隈と相性がいいものらしい。まあどちらも基本的に既存の物語の二次利用的なところから大喜利式に設定と物語を作ることが多いからであろう。この辺はまたおいおい考えたいが、もともと書きたかったジャンルが小説投稿サイトと相性が良かったのは運が良かった。

 何より異世界転移・転生ものとちがって「あんなものは小説とは呼べぬ」「自分が十代の時に読んでいたライトノベルはもっと本格的であった」「ストレスにまみれている最近の二十〜三十代はストレスフリーなフィクションを求めている」的なお手軽に腑に落ちる雑語りをする方が見当たらないのが助かる。当たり前だが最初から別ジャンルだと理解している方が多いため「少女と魔法の物語は角野栄子や柏葉幸子に梨木香歩、ダイアナ・ウィン・ジョーンズそのほか諸々名作児童文学に並び立つような作品を生み出さねばならぬ」なことを言い出す人が皆無なのは幸いであった。ちなみに私は児童文学界隈で出てくる魔法を使う女子では天沢退二郎の小説に出てくる女の子が格好良くて好きだ。

 邪道で外道で何故か魔法を扱っているにも関わらずワイドスクリーンバロックな雰囲気があるものほど「大人の観賞に耐えうるものである」式の評価に傾きがちなのもこのジャンルのユニークな一面であろう。邪道で外道なのがもはや王道なのではないかという勢いのようなので、自分自身も邪道で外道なのものも書いてはきたが「大人の観賞に耐えられなくていいが物語の完成度は高く可愛くて楽しいものを書きたい」をそろそろ今後の目標にしたい。ワイドスクリーンバロック要素は適宜取り入れてみたくはある(とかなんとか語ってみたがワイドスクリーンバロックとはなんぞやということはイマイチわかっていない。皆川ゆかさんが昔ティーンズハートで発表されていた規格外の少女小説群を冗談を交えた風にワイドスクリーンバロックと称されていたので「なるほど、ああいう作品を言うのか」とぼんやり理解してるのみなのであまりツッコまないで頂きたい。それにしても皆川ゆか作品がラノベ批評の場で取り上げられる機会が少なすぎるのはちょっとおかしいんじゃないかと思う)。

 ・自分の書いたものを読んでいただくのは非常に恥ずかしいけれどとても嬉しい。プロアマ問わず創作されている方が読者の何気ない感想であんなにも一喜一憂されるのがよく分かった。

 私は本来ネガティブな感想をすぐ口にする方だけど、今後は少々控えよう。ネガティブなことを言いたいときはちょっと考えよう……という殊勝さが芽生えた(しかし今でもあまり好きではないドラマの類には相変わらず文句を言ったりしている)。

 ・また、「読んでいただける」という場所まで自分の作品を運ぶことがいかに難しいかということもよく分かった。

 すごく面白い! 傑作! ……と、書き手だけが信じていても、どこぞの素人の書いたものなんて普通注目されないし埋もれるのが当たり前である。

 某少年漫画雑誌にたびたび現れる、悪い意味で個性的すぎる内容で10週打ち切りを食らった漫画家さんなんて作品連載期間より数倍の年数で愉快なネタとして語り継がれたりするけれど、そもそも10週打ち切り食らうところまでいけただけあの人たちはすごいんだよ……。お前なんかそこまで到達できてないんだぞ、全然笑ってる場合じゃないよ……というような謙虚さも芽生えた。

 ・どうやら文章書いていると脳内麻薬がドバドバ出てくる体質らしい。トリガーハッピーという言葉があるらしいがそれに倣うならキーボードハッピーということになるだろうか。

 クオリティーはさておいて書いている時はとにかく楽しいし気持ちいい。が、そのせいで時間の配分を簡単に見誤る。結果、気を抜くと日常生活がすぐさま荒む。

 ・毎日更新するとPVが増えたりフォロワーさんがついてくださることは確かにある。ただそれを目標にすると、承認欲求が暴走してしんどくなる。

 この承認欲求の暴走と先に上げた執筆時に脳内麻薬が出やすい体質と組み合わさると、何が何でも書いて発表せねばならぬ、更新し続けねばならぬというようなすさまじい中毒症状を引き起こすことになる。その結果隙あらば用もないのにカクヨム覗いてしまったり、睡眠時間を押して更新しようとしたりして心身の悪化をもたらす。

 これが実はシャレにならんほど怖いやつだと気づいたので、カクヨム二年目は承認欲求の飼いならし含む自己管理を今後強めに意識してゆこうと決意した次第である。

 ・とはいえ、やっぱり書いたものを大勢の方に認めてもらえるのは何事にも代えがたいほど嬉しいものである。

 そういうチャンスがカクヨムを初めてわりとすぐに巡ってきたことは、素直に幸運だったと思う。

 



 

 ――そういうわけでカクヨムに登録して大体一年が経ちました。


 相変わらずどこに需要があるのかわからない、女児に向けて書いていたはずなのに放っておくとあばずれ娘と根性悪ガールがたくさん出てくるギャーギャーうっさい妙な小説と着地点のないエッセイばかりを書いていてほぼ一年……。自分の書いたもの一覧を振り返ってみて、我ながら書きすぎじゃないか、この一年一体自分は何に憑りつかれていたのかと冷や汗が出てくる始末です。無駄に長い近況ノートも含めると本当にヤバい量になる……。


 これも偏に、基本的にギャーギャーうっさい女子しか出てこない妙な小説を書くやつを面白がってくださった皆様の応援によるものです。

 本当にありがとうございます。皆様の応援と反応がなければ、読まれもしない小説を書くことのむなしさに潰えてしまっていたことと思います。日常生活は真っ当に営めていたかもしれませんが、その後の一生、創作活動に打ち込める人を「すっぱい葡萄」式にねたんで羨むだけの人生を送っていたかもしれません。


 

 カクヨム活動一周年の個人的メモリアル企画ということで、上のようにカクヨム活動を初めて一年の所感を思いつくままに挙げてみました。


 その中で、最後に述べている「カクヨムを初めてすぐに巡ってきたチャンス」について語らせていただきます。

 はっきり言いまして、あの時いい球が来たんでバットを振ったらホームランが打てた式の成功体験語りです。でも、この体験があったからこそ時々しんどくてもカクヨムでの活動が続けられたというのも自分の中で動かしがたい事実ですので、語らせていただきます。メモリアルご祝儀ということでお許しいただけましたら。

 飲み屋で同僚や先輩が「自分は高校球児だったけど三年の夏に地区大会の決勝戦まで行けた。県内一の強豪校にいい勝負をした」クラスのどう反応していいかわからない自慢話を右から左へ聞き流すテンションでお読みいただいてかまいせんので、お付き合い願えますと幸いです。

 



 2017年7月いっぱい、ほぼ週一ペースで念願だった魔女っ子小説を細々と連載しておりました。

 それと並行して、頭に浮かんだ短い小説もポチポチ書いては公開しておりました。

 この時点ではもちろん、ほとんどどなたからも注目されてはおりませんでした。

 誰からも読まれるチャンスのある場所で小説を発表して誰からも顧みられないのはこんなにも辛く虚しいものなのか! ……と挑戦して初めて知る真実を噛みしめながらも、それなりにのびのびと活動しておりました。PVが回らないのは悲しくとも、他人様に自分の書いた物語を披露する経験が全くなかったので、全く注目されていない状態が気楽だったのも事実だったのです。性癖が出まくったバカ話とかも書いていたので、たまにPVが回ったりすると猛烈に恥ずかしかったものでした……。


 そんな日々を過ごしていた8月にカクヨムのお知らせが目に留まったのです。


 「日帰りファンタジーコンテスト」の開催を知らせるものでした。

  

 日帰りファンタジーとは……? という思いで概要に目を通して、「これだ!」としびれたのを覚えています。これは自分向きのヤツだ! と。

 エッセイや近況ノートあたりでしょっちゅう主張してますが、私はハイファンタジーよりも、圧倒的にローファンタジー(特にエブリデイマジックと呼ばれるもの)とマジックリアリズムやストレンジフィクションと呼ばれるジャンルが好きなのです。自分で書きたいのもこの系統でした。まず真っ先に書いたものが魔女っ子小説なくらいですしね……。


 概要を読むと、カクヨムが求めるのは通勤通学のついでにふらっとダンジョン探索するようなお話で自分の書きたいものとは違うような気配は察しましたが、それはそれ、「ローファンタジーないしマジックリアリズムを書いてよいってことですね?」と前向きにに曲解することにしました。

 夏には連載小説は終わらせる予定だったので、コンテストの募集が始まる九月はちょっと頑張ってみようかなあ~と、いい目標が出来てやる気を出した八月でした。


 そんなわけで、コンテスト募集期間中に書いたもの二作品と、募集前に書いていた一作、計三作を投稿しました。そのうち、募集告知前の八月上旬に書きあがっていたのがこちらになります。


 『嘘松アーニャの夢色異世界』

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054883760270



 募集前に書きあがっていたこともあって、受付開始が始まってすぐに投稿ができたことが幸いしたのか、今までにない勢いで注目していただけました。カテゴリーエラーすれすれの作品だったところもいい具合に作用したのではないかと思われます。

 星を頂戴したのも、勿体ないようなレビュー文を頂けたのも本作が初めてです。一時ですが、ランキング上位にいたこともありました。今まで普通に埋もれていた変な小説書きとしては、ありがたくも怖かったので敢えて意識しないようにしておりましたが……。

 

 結果、大賞は逃したもののピックアップ作品に選んでいただくことになりました。それは今まで特に誰からも褒められることなく生きてきたものにとっては挙動不審になるほど嬉しいことだったんですよ……(その辺の率直な気持ちはあとがきの方で鬱陶しいほど語っておりますので割愛します)。

 

 賞金がもらえたわけでもなく、本になるわけでもない。運営から選評を頂いたにすぎない経験を果たして成功体験に数えてよいものかどうか悩みますが、「書きたいジャンルで評価された」という体験は強烈にうれしくて気持ちの良いものだったのです(今だから白状しますが「自分にしては面白いものが書けた」という自信が無いでもなかったので、狙った球を狙った通りに打てたという達成感も実は結構ありました)。


 今思えば、本当に恵まれたビギナーズラックであったと思います。

 恵まれすぎて、なんとなく買ってみた馬券で大当たりを出してしまった快感が忘れられずギャンブル依存症になってしまった人のようになりつつあるな……と、背筋が寒くなるような時もあるくらいです。


 お陰様で「アーニャ」今でも拙作の中でも読んでいただくことや、評価を頂くことの多い作品です。度々繰り返しておりますが、作中のアーニャは非常に面倒なやつであるものの私にとっては一番の孝行娘です。

 反面、「アーニャ」を超えるようなものを書かねば、このままいくと「ピックアップ作品に選ばれたことを唯一の成功体験として語り継ぐショボいアマチュアもの書きウーマン」に堕してしまう(現に今こうやって語ってるし)……という怖ろしさを突き付けてくる作品でもあります。


 そのせいでこの一年、馬車馬のようになって書きまくっていたわけですね。あれ以上のものを書かないと、と。


 ですのでこの一年、私に憑りついて狂ったようにものを書かせていたモノの正体は「アーニャ」だということになります。そう考えると結構、いや、かなり怖い。チープで杜撰な物語を更新し続ける少女の物語を書いた人間がほとんど読まれないような小説を書き続けているなんて、ミイラ取りがミイラになるを地で行くような話じゃないか……うわ、怖い。ホラーだな。

 荒んだ部屋でそう自嘲したくなることも度々ですが、それでも書くことでよってえられる代替のきかない喜びや苦しみを与えてくれたのもまた「アーニャ」ということになります。


 読んでいただくことの嬉しさや有難さ、ビギナーズラックの快感、評価していただいたものよりよいものを書きたいという目標に突き動かされ、とにかくこの一年は書きに書いた年となりました。

 結果はどうあれ自分を出し切ったもの、不本意な手ごたえのもの、難しくて音を上げそうになったもの――書き上げたものは様々ですが、これだけやってこれたのも全て「アーニャ」とあの時「日帰りファンタジーコンテスト」が行われためぐり合わせのお陰で間違いありません。


 そのことは一度きちんとまとめておきたくて、カクヨム始めて一周年のこの機会を利用することにしました。

 自分の書いたものにに礼を言うのは変な話ですが、常にどこかに「ありがとう、アーニャ」という気持ちはありますね。本当に……。



 そんなわけで、カクヨム二年目が始まりました。

 比較的自由な時間があった一年目とはリアルの状況がまるで違いますので、とりあえず体調管理に気をつけ、承認欲求と執筆による脳内麻薬中毒の亡者にならないよう上手に折り合いをつけてゆきながら、細く長く活動を続けて参る所存です。

 

 こんなやつですが、「こいつ今何書いてるのかなあ」くらいのテンションで見捨てずに時々立ち寄っていただけますと幸いに存じます。



・おまけの宣伝

 「日帰りファンタジーコンテスト」に応募した他の作品は以下の二つになります。

 日帰りできる距離にある異世界……という点を私なりにまじめに考えた結果、こうなりました。


 『ショッピングモールのえる子と私。』

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054884001180


 ローファンタジーをやりたかったのもありますが、直球の百合小説に挑戦したかった作品でもありました。

 郊外、ショッピングモール、ラーメンという、既存の百合ものと相性の悪そうな題材で堂々と少女同士の絆を描いてやらあ! 可愛くて綺麗な小道具や舞台設定を使わねばならぬという百合界隈の思い込みに風穴を開けてやるう! ……という謎の(余計な)チャレンジ精神を発揮してみた小説でもあります。結果は読んだ方の判断にお任せします。


 『異世界まではあと何㎞?  ~魔法少女逃走中~』

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054884092843


 サービスエリアと高速道路が舞台のモータリゼーションローファンタジーがやりたいというカクヨム登録以前からの目標がありまして、それに挑戦してみた所、どういうわけだかこんなセックスアンドバイオレンスな話になっていました。

 書いていた時は正直楽しかったけれど、こんな下品で陰惨な物語を書いていては全世界の女児パイセンに顔向けできない。中途半端に終わっているのが気持ち悪いから、速やかに完結編だけを書いて無かったことにしよう……と考えていたことが今となっては嘘のような小説。本編をのっとる勢いで長大化したスピンオフ小説の執筆にのめり込んでしまったり、そのくせ完結編のストーリーがなかなか見えてこなかったりで終わらせることができず、世界観を共通している物語をまきこんでやたら壮大化していきそうなことに私自身脅えております。

 これを書いていた時点では、まさかここまで大風呂敷なストーリーになるとは予想だにしておりませんでしたよ……。でも本当に完結編は書きたい。悪辣な魔法少女と魔法の国の女王様の愛憎の行き着く果てを書きあげたい。いつになるかわからないけど。


 なお本作ヒロインの髪形が違ったり登場人物の口調が本編とスピンオフで微妙に異なることは、単純に私のミスだったりスピンオフ執筆時に追加した要素だったりします。早急にどちらかに合わせて修正しないと……。



 ついでですが、この二作だと『魔法少女逃走中』のみが読者選考を通過しておりました。評価は『える子』の方が高かったのにこちらは通過せず。その結果が今でも結構意外です。

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