第8話 乳袋で例えるあまり好きではない人気ジャンルへの対処法

【Q】

 小説投稿サイトで、自分がちっともいいと思わないジャンルが人気を集めていることへの不満や違和感はどう処理すればよいですか。


【A】

 難しいけれど「そういうものだ」で割り切った方が楽です。

 「よそはよそ、うちはうち」っていう昔から伝わる万能の呪文もあります。それに縋るのもアリでしょう。


 「あんなジャンルが流行るのはおかしい」

 「ここ数年のエンターテインメント小説はスマホやソシャゲとパイの奪い合いをしているためにああなっている」

 「疲弊している昨今の若者は小難しく歯ごたえのある文章を求めていなからだ」

 

 ……と、分析するのもおおいに結構ですが、これもやりすぎると大体拗らせてドツボにはまってしまい、読み手にはただダークサイドに落ちていらっしゃるように見えてしまいます(そう見られたいのなら構いません)。

 適当なところで適当な結論がでたら、プロデビューや書籍化を目指しているのでもない限り自分の好きなものを好きなように書いた方が精神衛生に良いのではないでしょうか。

 

 そもそもwebの小説投稿サイト界隈にいるとうっかりわからなくなりそうですが、「今時本や小説を読むのが好きな人=webの投稿サイトで人気を集めているジャンルの小説ばかり読んでる人」ではないのです。

 投稿小説サイトから生まれたベストセラー、ライトノベルの発展に伴うキャラクター文芸の隆盛……等々、出版不況だのなんだのに関わるのであろう大きなうねりは素人の目にも目立つものの、本が読むのが好きだという人の中にはそういう流行があることもあまり気にしていない人も少なくありません。何故ならその人たちが好んで読む本がそことは違う場所にあるので。


「なにそれ? そっちではこういうのが流行ってるんだ。へ~。まあ自分は読まないけど」


 という人も多々いらっしゃるのです。

 投稿サイトで見られる人気ジャンルの隆盛が気に食わないなら、そういう小説にハナから興味持ってない人たちが多そうなところへコミットするのがよいのではないでしょうか。





 萌え絵業界に、「乳袋」と呼ばれる記号的表現がありますね。

 

 シャツやブラウス、すごい時には制服のブレザーや軍服などそういうデザインで縫製されるはずのない衣類が、女の子の胸に水着のごとくぴったり張り付いているように描かれているアレです。


 私はあれを見かけるととりあえず驚きます。


 シャツ、ブラウス、Tシャツなどならまだ見逃せますが、ブレザーやそのほか制服など本来厚手の生地で作られるはずの衣類で乳袋となると、さすがに目を瞠って二度見三度見します。

 ただの乳袋ならまだしも、まるでゴムで作られてるかのようにうっすら肌が透けていたりあまつさえ乳首でも見えていたらどうしてもツッコミ欲をおさえられません。その制服の材質は何だ、なんで出来ているんだ、せめてブラジャーつけさせてあげて……等々。


 ツッコミ欲が抑えられなかったら、時々Twitterを利用したりします。


 

 ……さて、ここからは「もしも」の話になります。


 私が何の気になしに放った「これはねえよ」というtweetを、件の乳袋イラストの作者が見たとします。


 その方は打たれやすく、人の言うことを真に受けやすい方でした。

 自分のイラストを批判されたことがショックで、乳袋表現をあらためるべく努力をしました。おかげで、女の子が制服を着用した状態を正しく表したイラストが描けるようになりました。

 

 どうだ、もうこれで「これはねえよ」と言わせねえよ! と、その方は思うかもしれません。

 でも、おそらくその頃にはかつてその方のイラストを批判した当の私は別のことを考えています。きっとその方のイラストを「これはねえよ」と批判したことすら忘れているはずです。

 私は常日頃、萌え絵や乳袋のことばかり考えて生きているわけではないからです。私にとって、その方が精魂こめて描いたであろうイラストは、たまたま視界にとびこんできたなんだかケッタイでやや不愉快なものにすぎません。


 さて、乳袋表現を改めたその方のその後です。

 乳袋を描かなくなったことで、その方のイラストが格段に魅力的になったというなら双方丸く収まって万々歳なオチですが、もしそうではなかったら?


 本来指向していたイラストとは違う方向性を取り入れたことで、その方が本来持っていた良さすら損なわれてしまったとしたら? 

 「最近のこの人の絵、可愛くなくなったね」「前の方が良かったね」ということになってしまったら?

 私という、通りすがりの門外漢による無責任な一言を真に受けてしまった為に、そういう悲しい結末を迎えるオチもあるわけです。これはちょっとバカバカしいのではないでしょうか。


 もしその方が、無責任な外野のいうことをふーんと聞き流せる方であったなら、「その塗りでは胸の質感が出しきれてないからもっとこうすれば」というような本来の方向性に沿ったアドバイスのみ取捨選択できる能力があれば、イラストレーターとして活躍の場が広がっていたかもしれません。きっと私のように乳袋が嫌いな人からはブーブー言われ続けることでしょうけれど、それより多くのファンを獲得していたかもしれないのです。



 

 自分が認められない人気ジャンルへの違和感と乳袋がなんの関係があるのか? という流れになってきましたので話を元に戻します。


 カクヨムエッセイなどを読むと、ライトノベルや「なろう系」と呼ばれるタイプ異世界小説への違和感を表明される方の文章をよく目にします。

 ざっと目を通した限り、「私はこういったものが受け入れられないけどなぜ流行っているのか」というスタンスから語っている内容のものが多い印象です。

 

 ということは、その方は普段はそういった人気ジャンルを楽しんでいるわけでは無いんだろうな……と推測されるわけですが、それなら自分の苦手なジャンルの隆盛など気にしなければよいのに、と単純に思うわけです。


 違和感を表明したい、という気持ち事態はとてもよくわかるのです。この回ではやたら悟ったことを書いていますが、もともとかなりアンチ気質の強い人間なので。

 表現の自由が保障されているわけですから、違和感を表明することそのものも全然構わないと思うのですよ。文章を書くことで自分の中で何らかの結論を得ることができるのなら無駄ではないでしょうし。

 

 ただ「人気ジャンル嫌い! あんなの流行ってるのおかしい!」と語った所で集まってくるのは「そうだそうだ、あんなの流行ってるのおかしい」って人だけだと思いますよ。おそらくその人気ジャンルが覆るほどの人数は集まらない。

 そういうお友達が欲しいだけならそれで構わないけれど、肝心の人気ジャンルのトップの書き手にしてみれば「ふーん、あなたの好きなタイプの小説が書けなくてごめんね」でしかないのではないでしょうか。


 人気ジャンルのあそこが嫌、ここがおかしい……と言い続けた所で、それを聞き入れてくれる人が面白いものを書けるかどうかはまた別の話ですし。


 そもそも、あそこが嫌、ここがおかしいと言い続けるジャンルの小説なんて「さーてあの忌々しいジャンルの状況がちょっとでも改善されてるかな? 私の考える理想の形に近づいてるかな?」という感覚で定期的にチェックしたりはしないのではありませんか? あーあのジャンル本当嫌いってこぼして溜飲下げるだけでは? そしてそんなヲチ行為に走る暇があるんならもっと自分の好きなジャンルの小説読んだり書いたりするのでは?


 そもそもそのジャンルの小説を好きで書きたいという人も、よほどメンタルが弱い人でもない限りジャンルにとってアンチ寄りな人の意見にわざわざ耳を傾けたりはしないでしょう。もっと有益なアドバイスを参考にされるのでは?


 なので、違和感のあるジャンルの流行は「そういうものだ」と横目で眺めながらほどほどの距離を保っておくのがお互いのためによいのではないかな、と思った次第です。

 あそこに山がある、川が流れてる、くらいの感覚で、「こういうジャンルが人気のようだ」と認めて接した方が気が楽といいますか。


 理解しづらい人気ジャンルの隆盛についてよくよく考えぬいて出したであろう考察が、そのジャンルの隆盛そのものが気にくわないという主張が基盤になっているせいで「なんか呪詛っぽくて読むだけで運気が下がりそうだなあ」という感想にしかならない文章にしかなってないものを見かけるのも辛いですし。



 ……と、まるで人ごとのように語っていますが、先ほども述べましたとおり元々私はかなりのアンチ気質なのですよ(アンチ気質じゃなきゃこんな小説発表しませんよ。以下宣伝https://kakuyomu.jp/works/1177354054883760270 それとは別作品ですが嫌いなタレントのアンチスレを覗いたり粘着対象のヲチを趣味にしている女子キャラを主役待遇で出したりしません。また別作品の続編になりますがもう一回宣伝 https://kakuyomu.jp/works/1177354054884093966)。


 web発の小説の流行がなかなか理解できない時が長かったですし。


 ただ「あんなのが流行ってるのはおかしい」と考えてる時の精神状態はあまりに悪かったので、意識してあまり考えないようにしてきた経緯があるのです。

 大体おかしいでしょう、自分が読みもしない小説のジャンルのことで常にやきもきしているの。不毛ですよ。その時間おやつでも食べてたほうが機嫌よく過ごせる分マシです。

 そんなわけで意識して割り切るようにした結果、多少は楽になりました。


 プロになりたいというなら別のアプローチも必要になるでしょうけれど、趣味で十分というならなるべく機嫌よく楽しく創作したほうがモチベーションも維持できる気がいたします。


 好きでやきもきしてるんだ! やきもきしてる方がモチベーションが上がるんだってタイプの方も中にはいらっしゃることと思います。そういう方のことは特に止めはいたしません。


 ともあれ、自分ではどうにもならないことでわざわざ思い悩みすぎないことが肝要ではないかということで、本稿を締めさせていただきます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る