第17話 ネーミングについて(※自作の裏話を語る恥ずかしい回)。
【Q】
キャラクターや小説内の固有の用語のネーミング作業は得意ですか。不得意ですか。
【A】
不得意です。
固有名詞をつけるのを極力回避しようとするところはあります。
よそ様のエッセイでいくつかネーミングに関するものを読んだのに触発されて、なんとなく自作のネーミングについて語ってみたくなったというだけのエッセイです。
冒頭で結論を出していますが、はっきり言って苦手です。
特に単発の短編などに顕著な、登場人物を「私」「あなた」等の一人称、二人称で片づけようとするのは無駄なネーミング作業を回避ししたいという露骨な思惑があるためです。中編、長編作でも「王子」「王女」「魔女」「先生」「友人」「お客様」等ととあからさまに固有名詞を避ける時がありますが、作中で別にそこまで必要じゃない固有名詞つけ作業に煩わされたくないからです。
ハイファンタジーをめったに書かないのも、(単に特に書きたいジャンルでもないということもありますが)よくあるカタカナ名前を考える作業が苦手だからでもあります。なんといいましょうか──恥ずかしい。
苦手ではありますが全く嫌いではないので、つけるとなったら自分の中で縛りを設けたり響きや雰囲気から考えて名前を考えます。そういう作業は楽しい。
自分の中で大事にしているネーミング作業をあげてみますと、以下のようなものになります。
・舞台が現代日本っぽいところなら……
読みやすく、覚えやすく、かといって平凡過ぎず、物語の登場人物としてほどほどのクセを有する名前。耳で聞いた時に響きが悪くないのが重要。
特殊な読み方や難しい漢字は特に意図がない場合はつかわない。
・異世界っぽいところが舞台なら……
雰囲気で。長すぎて難しい名前にはしない(こっちが覚えられない)。
……別に語れるほど大層なものではありませんでしたね。
あと、作中の世界観によってネーミングのルールを変えてますので、自作それぞれについてのネーミング法則などを語ってみようかなと思います。
というわけで以下に続く文章は、「お前のエッセイは読むが、ぶっちゃけ小説には興味がない」という方については全く楽しくない内容になることを今からお断りしておきます。作者が自作について語るという自慰行為に付き合わせて申し訳ない……。
「お前の小説ちょっとだけ読んでるよ」という方なら少しは楽しんでいただけるものにしたいのですが、要らんことをうっかり書いてしまいがちな為に知りたくなかったことを書いてるかもしれません。幻滅させてしまったら申し訳ないです……と前もって謝っておきます。
とりあえず発表・シリーズ・文字数順などに分けて語ってみます。
・『魔法少女サマーキャンプ』
どっかで見たり聞いたりしたことがあるな……と思わせる、既存の女児アニメ・児童文学・漫画・ゲームや映画などで見聞きしたような既視感のある名前から憶えやすそうなものが指針になっています。ほとんどの登場人物にファミリーネームが無いのは必要がないからです。
あとはあからさまなパロディーですね。
モモとマミという二人のヒロインの名前は先行する偉大な魔法少女作品へのオマージュですし(「モモ」は児童文学界にとっても特別な名前でもありますしね……私は『ちいさいモモちゃん』シリーズが好きです)。
登場する漫画家の東村はやとという人は偉大なアニメ映画監督の名前から発展させたものになっています。
・『胴なし馬のファラダ』
元がグリム童話なのでドイツ語名で統一しました。
調べてみたところ原典である「ガチョウ番の娘」の王女の名前はリーゼルというのがわかったのでそれを採用し、あとは適当にドイツ語人名を雰囲気から選んでわりふりました。
語り手のリーゼルの地の文では頑なに固有名詞が出てこないのは私の固有名詞付け作業の苦手さの現れといってもよいです。基本的にこの作品では名前は記号のようなものといいますか、そこまで重要な情報ではありませんので……。
・『魔法少年少女とマスコット』
イメージカラー、そしてダジャレを含むという漫画などで定番のネーミングを採用しています。
名前に色が含まれていない益子の名前は「マスコット」からきてるというしょうもないもの。
沢田は、野球少年→野球→沢村栄治→沢村だとまんますぎるしそこまで偉大なプレイヤーでもないから一文字もじって沢田、という安直ネーミング。
アリスドロレスは、ロリータキャラにしたい→んじゃあ「アリス」とロリータの本名「ドロレス」の足し算でいいか……というこっちも安直ネーミングです。
・『ショッピングモールのえる子と私。』
『える子故郷に帰る。』
ネーミング作業を極力回避したいという私の横着根性が発露しまくってるシリーズといっても過言ではないです。
異世界からやってきたエルフっぽい子は出したいが和製ファンタジーなカタカナ名前を考えるのはめんどい……。もう、エルフなんだから「える子」いいじゃん! という。える子の故郷の村の人々の名前は長すぎて下手すると本人すら知らないという設定は、える子のカタカナ本名を考えんで済むようにした方便設定でもあります。
そこから「好きな人に呼び名を決めてもらう風習がある」という風に運べたことは、我ながらファインプレーだったなという自画自賛したい思いは多少あります。
える子がファンタジーな女の子であるために、対をなすこちらの世界の人間である女の子はごくごく平凡な名前にしたいという意味があって佐藤美里というクセの無さすぎる名前になりました。
・『世界を救った勇者の妻である元異世界の王女が描いたほのぼのエッセイ四コマ漫画。』
『火崎日向子の友情と初恋。』
『門土みかどの大晦日。』
完全になんとなく……。耳で聞いた時はそれほど違和感はないがヒロイックな過去がありそうな少年漫画の主役感のある名前ってことでぼーっと考え、元勇者という経歴をもつ二児の父である人物に火崎雄馬という名前をつけました。奥さんのマーリエンヌにいたっては雰囲気でしかない。
日向子と央太も「ひめこちゃん」「おーじくん」という、作中のブログに登場する名前から逆算して生み出した名前です。
門土みかどは、土御門のアナグラムですし(みかどは呪術師という設定になりましたが、初期では陰陽師でした)。
『火崎日向子の友情と初恋。』に登場する烏丸ヒカル、紫竹あおいは、ノーブルな雰囲気の名前にしたかったので京都市の地名と源氏物語の登場人物名を組み合わせました。
・『異世界まではあと何㎞? ~魔法少女逃走中~』
『実録 魔法少女焼死事件その真相』
『焼肉とタバコと魔法少女と。』
別エッセイで書きましたが、この世界観に登場する悪い妖精の国は「甘いもの+なんだかポップでステキで可愛い雰囲気のある言葉の組み合わせ」で出来ています。今後、このネーミングの法則で出てくる妖精の国はヤクザじみたところです。
どうしてこのネーミングなのかというと、「エロ本とかエロ漫画ってなんで甘いものの名前を冠するところが多いんだろう?」という疑問から生じたものだからです。
キッカが立ち上げることになる国の名前は犬耳を持つ女王様が治める国ということで「魔狼王国」という、我ながらもうちょっとなんとかしろよという国名になっていますが、下手に凝った名前よりはシンプルなほうがいいだろうということでこうなりました。
ハニードリーム所属の魔法少女の名前は、「花の名前を含む」「リズムは四・三」「マヌケな韻を踏む」というルールがあります。そんなルールを設けたために後々苦労する羽目に……。
キリサキキッカのキッカは「菊花」ですね。
ツバゼリツバメは例外的なネーミングになっていますが、昔の名前が「カメリア(椿)アリア」でした。ハニードリームの方針に馴染めなかった妖精のパートナーということでルールからやや外れるネーミングなった……というのは後付けです。
ハニードリームの構成員はクマのぬいぐるみのような妖精ですので、そこに所属していた妖精の名前は熊がらみということになっています。故にツバゼリツバメのパートナーの名前はツキノワです。
・『千秋の本屋と無口なくまの子。』
雰囲気のみです(きっぱり)。
秋に書いていた小説なので主人公の名前は千秋、そこから拡げて友達の名前は四季に纏わるもの。不思議な友達のこぐは「やまのこぐちゃん」由来だから「こぐれ」でいいか……という単純なものです。しかし「こぐれ」という名前をつけるには、この子の親は何を思ってそんな名前を付けたのか、どんな漢字を当てるのかと、逆算の段階で頭を悩ませました。
大人サイドの登場人物、ミサコおばさんは三女だから「ミサコ」、とあれば自動的に「ヒロコ」「フミコ」になるな……という、ごく単純なものです。
マイちゃんは、昔同級生に「〇〇舞さん」という目立つ美少女がいたことに因んだような。
イシクラさんはやっぱり雰囲気ですかね。
・『テレビ、そして異世界を滅ぼした二人の少女についての覚書。』
異世界が舞台であるが故に、回避するわけにはいかないカタカナネーミングにがんばった作品です。
が、チタ、ジウ、リッツァー、ギーチ、トバコ、ドラ……等々、我ながら「本当にカタカナ名前考えるの苦手なんだな」と呆れる名前になってます。「王子」とかネーミング放棄した人物もいますしね。
ちなみにギーチとトバコは藤本義一と花登筺が由来だったような(完全に名前だけ)。関西お笑い界ノスタルジーがテーマだったために上方お笑いの縁のある方に因んだところからネーミングを引っ張ったような。
ドラだけ一応作中でもちゃんと由来のある名前になってます。カサンドラの神話があまりに理不尽すぎて印象に残っていたのでしょう。
・『月夜の森の魔女学校。』
このシリーズの登場人物の名前には「夜の空を連想させる言葉」「魔法を連想させる言葉」の組み合わせというルールがあります。
望月真帆は、満月と魔法(マホウ→マホ→真帆というダジャレネーミング)ですし、真宵ソラミは「夜の空」を飛ぶ魔女っぽいイメージを連想してほしかった名前です。
あえてつけたDQNネーム女子のステラですが、星子と書いて「すてら」と無茶苦茶に読ませる分、苗字はバランスをとってよく見かける苗字の代表格である「鈴木」を選んでいます。
蛇足ですが、ステラはネーミングでもキャラクターでもかなり気に入っている子です。
・『雲鯨奇譚』
あとがきに詳しいのですが、鬼娘たちの名前はあれだけもてはやされる京都の中でほとんど顧みられることのない口丹地域の地名・河川名などが由来です。もともとは擬人化ものだったのが出発点だったので……。
鯨捕りの人々性質の名前は、銛をもつ者の長だから「モリオサ」、鯱っぽい何かに変身するから「鯱」というごく単純なものです。
ミナトという地名は「山の中にあったら面白い名前」という所からきていたような。
・『マリア・ガーネットとマルガリタ・アメジスト、天国を奪い取る。』
『放課後のウィッチガール』
『バースデイプレゼントと女王の罪』
親シリーズの『魔法少女逃走中』と同じルールに則り、出てくる妖精の国の名前がピーチバレーパラダイス、ドルチェティンカー、ショコラポイジーということになっています。ちなみに、ピーチバレーパラダイスの妖精は子ブタ、ドルチェティンカーは黒い羊ということになってます(ショコラポイジーは今の所未定)。
この世界の悪い妖精業界では、それぞれの長を「○○ボス」乃至「○○クイーン」、その後継者を「○○プリンス・プリンセス」と呼ぶ習慣があるようです。
なんで「ボス」と対になるのが「クイーン」なのか? 女性が長になると「クイーン」になるなら男性なら「キング」になるのが普通じゃないか? という疑問が当然湧きますが、明後日の方向を見ながら「ふ……雰囲気……」とだけお答えさせていただきます(とりあえず女性が長になった場合、「クイーン」か「ボス」かは本人が好きなように選んだら良いということになってるという設定を今用意しました)。
他はあとがきに書きました通り、キリスト教がらみの名前で一応統一されています。作中の人物から振り回されているジェイクという登場人物もそうですね。この人は機会があればフォローしてあげたい。
ユスティナも、調べ物をしていた時に出てきた「魔術の守護聖女」名前がユスティナというものだったことに因んだような。
作中の女の子の名前に誕生石をわりふったのは、(あとがきにも触れました主人公とヒロインの元になったキャラクターが数に関係のあるキャラクターでしたので)ナンバリングの意味もありますが、作中の雰囲気にリリカルさを添えたかったと意図もあります。最後の方になるにつれ「リリカル……?」ということになってますが。
厨二団体の名前「カテドラル」も、大したことはありませんが本人的には結構頑張ったネーミングなんですよ……。これしきのことですが、恥ずかしかったんですよ……。
『バースデイプレゼント』に出てくるリリスのファミリーネームはカタカナネーミングが避けられなかったためにチョコレートの成分からひっぱりました。ファーストネームは言わずもがなですね。
・『ハーレムリポート フロム ゴシップガール』
あちこちで散々言いまくってますが、本作を書きたかった第一の動機が『行け! 稲中卓球部』に登場する名言「サメの話しようぜ」なために、登場人物の名前は鮫が由来になっています(なぜそのセリフがこんなやたら字が多い小説に結実してるのかということに関してはまた機会がありましたら)。
どこが鮫だ! というキャラクターも大勢いますが、その時にゆっくり説明できましたら。一つあげますと、トヨタマタツミというキャラクターは、古事記に登場する鮫に変身して出産している姿を見られた豊玉姫という女神様に由来します(当キャラクターは古来から連綿と受け継がれる巫女家系の名門の姫ということになっていますが、豊玉姫を祀ってる家系というわけではないです)。
また作中に出てくる拡張現実は、本来何かしら特別な名前を用意すべきなのですが、ネーミング回避癖と「そのシステムはたかだか作中世界のガジェットにすぎず、『こういうものが一般化されてる世界ですよ』というのを示したいだけなので物語にさほど重要ではない」という理由でそのまんま拡張現実ということにしております。……やっぱなにかしらシステム名を考えておいた方が親切だったような気はしますが。
登場人物固有の武器をなぜ「ワンド」と呼ぶのかに関しては、ワルキューレという作中の存在がそれぞれ魔法使いのイメージで語られがちだったため、魔法使い→杖、という連想によって彼女らの持つ特殊な武器は形がなんであれ「ワンド」と呼ばれる……という設定になっています。
──とりあえず、現在連載しているものまでについてのネーミングを簡単に語ってみました。
結局単なる裏話以上のものにはなっていませんね。
とりあえず「作品にとってさほど必要でないものに関しては名前をつけない」「作品にとっては重要な人物やものでも肩書や一般名で十分ならそっちを優先する。固有名詞に固執しない」というところに関しては徹底してるな……と思いました。
そんなに名前つけるの嫌か、私よ……。
まあ言い訳しますと、下手に名前をつけることによって発生する過剰な意味を抑えたいという意図もないわけではないです。
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