新たなる来客と記憶の断片

第七話『ふぶく風と来客』

 ゲームと現実は違う。

 例えば、ゲームをしていて、開けない扉や条件を満たさないと開けられない宝箱を見た時。

 こう思ったことはないだろうか。

 魔法や武器を使ってモンスターを倒せるのならこんなものはぶち壊せばいいのに…。と。

 しかし、それはできない。

 なぜだろうか。

 答えは簡単だ。

 『それがルールだからだ。』

 再度言おう、ゲームと現実は違う。

 アンニュイにそう語る人ほどわかっていない。

 根本的に語る人ほど、何が違うのか明確な理由が存在していない。

 どうせ、現実か、そうではないか。

 その程度だろう。


 では、ここで一つ、例を出してみよう。

 あなたが今、この物語を読んでいるとして、それは今、生きている中で必要なものか。

 と大いに議論を述べたいところだが、それには及ばない。

 ゲームと現実。それはもっと根本的に砕けていいのだ。そう、いうなれば…。

 『存在している明確なルールの絶対性』だ。


 先ほど出した、ゲームの話でルールを無視し、現実らしく考えると。

 目の前にある扉など関係なく、そして、遠慮なくぶち壊して進めばいいし。

 ゲームの世界が危機的状況にあってそれを救うためのカギがどこかもわかっていないところにおいてあったとして?

 そのカギが必要なら、はたから聞いた情報をもとに、器物破損で訴えても怒られることはない。

 逆にラスボスを倒せるほどの魔法を使用しても壊せない、ものすごく頑丈な扉があったとしてもその扉ではなく横の壁を壊せば進めるし?

 むしろ、その扉を持ってきて盾にするのもよいだろう。

 あのアーサー王物語で言えば、岩に刺さっているエクスカリバーをアーサーが抜くことで有名だが、現実的に考えれば剣ではなく、岩のほうを砕いて、剣を取ることだってできたはずだ。

 しかし、誰一人としてそういったことはしない。それはなぜだろうか?


 答えは簡単、面白くないからだ。


 そう、すなわち『ルール』というのは『明確なエンディング』を目指すための過程でしかない。

 将棋なら王を追い詰める。

 野球や、サッカーなどのスポーツなら得点を多く決めたほうが勝つ。

 ネットゲームならラスボスを倒す。

 そういった、設定された『明確なエンディング』にルール無視では面白くないのだ。

 故に、ゲームにおけるルールというのは『絶対性』というのを有する。


 ここまで語ってきたがもう、勘のいいひとならお判りだろう。

 現実には先ほど述べた『勝利条件』というものが存在しない。

 特定条件を満たしたとしてもさらに難易度の高い次の要求が待っている。

 誰かを殺したり、世界が平和になったりもしない。

 結婚した二人がいつまでも幸せに暮らせるとは限らない。

 あー、いや、別に何でもない。

 とにかく、現実というのは例外なく『バットエンド』に向かうものである。

 だったら、そんな世界滅べと言いたいくらいだが、人というのは賢い生き物で各自の解釈で勝手に『エンディング』を設定し、ルールを勝手に作る。

 よりお金を持てば勝ち。

 より楽をして生活をすれば勝ち。

 そもそも、考えれば負け…。


 では、少し考えてみよう。


 あなたがゲーム…この場合は『ポ〇モン』がいい例だろう。

 『ポ〇モン』をやっていて、突然対戦相手が自分の都合で、普段は絶対に覚えないのに、強力な技を出して、でたらめに使って、勝敗をしっかりと決めていないのに「勝った」とどや顔で言われる様を。

 いかがだろうか。

 明らかに腹パンしたくなるほどの事だろう。

 だが、これの現象が、皆が常にそんな風にプレイしているゲームであれば?

 『チート』この単語で解決できる。

 そう、これこそ『現実』でもある。


 最後になるが、ゲームと現実は違う。

 まさしくその通りなのだが、それを根拠もわからずに得意げに語る人にはこう返してやりたい。


『お前と一緒にするな。クソビッーーー』


 今回の話はこういう話がよく出てくる。

 どうか、この話も『モブ』ではなく、大事な『ルール』として。

 これからの話を見てもらいたい。


 あの席替えの事件から数日が立ち、学校の授業も本格的になっていった。

 入学直後に行われた新入生学力試験は美奈子が三位、理奈が十二位、という好成績を収めた。

 え、僕?ピッタリ五十位ですがなにか?

 その後も、僕は今日も相変わらずの理恵と美奈子の両手に花状態で登校している。

 やっぱり登校中に男子からの強烈な視線を感じるのは気のせいだろうか…


 ここ最近の話題であった席替えの件だが、僕の隣には空席が出来た。

 実際には二十九人ではなく三十人で、その一人が座るはず席だった事は事件が終わってから教えてもらった。

 先生、そういうのはもっと早く言ってくれよな。

 また、その本人があんまり学校に来ないということで隣に友達が欲しくない僕が座ることになった。

 予定していた席の一個前という謎の結末を迎えたことに対しては怒らないでおこう。

 ちなみに前は理奈、後ろは美奈子という、まるで図ったなぁ先生、とでもいえる席順になっている。

 つまり、僕は友達を作るどころか、状況を変えることすらできなかったということだ。


「ねぇ、晴馬くん。」

「うん?どうした急に。」


 隣を歩いていた美奈子が僕に質問してきた。


「晴馬くんは、理奈ちゃんとボクのどっちが好きなの?」

「へ?でも、なんで急に?」

「ふと思ったわけだよ、あの日、緋想さんからボクを守ったのは晴馬くんだ。だけど、君は理奈ちゃんの彼氏だからボクを助けたのはただの成り行きなのかなって…」

「そうか…」


 美奈子の言っていることは正しいし、事実だ。

 あそこで僕が入ったのは完全なる成り行きでしかない。

 しかし、あの場は僕しかできなかったと思う。

 他の奴が出しゃばっても理奈の二の舞になるだけだ。

 美奈子は僕の幼馴染みで理奈は僕の彼女、立場的には圧倒的に理奈の方が上だ。

 かといって美奈子が嫌いという訳ではない。

 嫌いな人間だったら僕の周囲にはいないはずだからだ。

 そう考えると美奈子も好きということになってしまう。

 だが、そうなってしまえば理奈はどうなる?『へぇ~美奈子の方が好きなのね。ふ~ん。』とか言って愛想をつかしてしまう。

 それは最悪のシナリオだ。

 考えても思いつかなかった僕は美奈子を見て、次に少し不安そうにしている理奈の顔も見て言った。


「僕はどっちも好きだよ。美奈子は一番の幼馴染みだし、理奈は僕の彼女だ。それは変わらないよ。だから二人がいなくなるのは寂しい。」

「ふ、ふ~ん、いいと思うわよ。私も美奈子と晴馬と一緒にいて悪いとは思わないし。あ、でも勘違いしないでね。美奈子が晴馬の彼女になるというのならその時は全力で相手してあげるから。」

「うん。ボクも理恵ちゃんと一緒にいるのは楽しいし…」


 そこで一区切り入れて美奈子は僕の腕を掴み、


「こうして晴馬くんの腕も掴めるし、一石二鳥だよ。」

「なっ、美奈子…まあ、いいか。」


 すっかり慣れてしまった僕は理奈の方を見るとめちゃくちゃ羨ましそうに見ていた。


「しょ、しょうがないわね。反対方向は私がもらうわよ。」


 嘘をつけー、今、めちゃくちゃ羨ましそうに見ていただろ。

 とはいえず…成り行きながらも反対側には理奈がくっついた。

 そして周囲の男子生徒の眼がさらに脅威になった。

 やばいな、誤解を抱く前に手を打っとく必要があるのかもしれない。


「ちょ、ちょっと二人とも、力が強くてこのままだと僕がまともに動けないよ。」


 助けて!アン〇ンマン!


「いいのです~晴馬くんはボク達に任せて力を抜けばいいのですよ~」

「そうよ、晴馬は動かなくてもいいの。」

「そんな理不尽なこと言うなよ。」


 でも、そんなことを言って簡単にいう事を聞くような2人じゃないのは僕が一番よく知っている。


「私たちがその程度で言うことを素直に聞くような人間だと思っているの?」

「そうですよ~」

「やっぱりか…。畜生、なんかわかっていたよ、くそったれ。」


 結局そのまま二人に引っ張られながらも学校に登校した。


 そういえば、忘れていたけど『二人の笑顔が見られれば僕はそれだけで充分だよ』という言葉を言えばよかったか…。

 いや、やめておこう。

 そう思い、僕は今日も校門の門をくぐり、ふと見上げると、もうじき、五月に近づいてきたのにも満開の桜がふぶいていた。

 一時間目から四時間目までの授業を半分眠気と闘いながら、昼休み、いつものように三人でご飯を食べていた時に先生に呼び出しをもらった。


「おい、石倉。お前に来客だぞ。」

「へ?僕に来客?」

「そうだ。」

「へいへい、それじゃちょっと行ってくる。」

「分かったわ。」「了解~」


 やれやれ、全く、ついてない。


「来客か、何でこの時間なのかなぁ。もっと早く来ることはできなかったのかよ。」


 と、来客に文句を言いながらも来客室へと通された。

 そして、そこにいた人物は僕を一目見ると言う。


「や、晴馬。久しぶり、んー、大体、五年くらいかな?」

「なっ…なんであんたがここに…」


 来客者は手を上げ、あたかも久しぶり感を出していたが僕と会うのは事実、三回目だ。 

 僕は必然的に右足を半歩下げ、構えの型をとった。


「そう身構えなくてもいいじゃないか。別にどうこうしようとする気はないのだからさ。」


 来客者は手を上に上げて特に何もないよ。と意思表示をする。

 僕はそれを見て、構えをやめる。


「やれやれ、一体、何をしに来たのですか…高野さん。」


 高野 孝弘こうの たかひろ、年齢は三十四歳。既婚者。

 高野家は小さいころ僕がお世話になった一家だ。高野さんはメガネに蝶ネクタイを付けシャツもビシッとしている一般的なサラリーマンだ。

 ただし、その容姿は見かけであって、裏では高野グループの社長を務める男。

 そして、僕に何度も無理難題な命令を下している外道な人間であり、二度と会いたくない人物の一人である。


「こうして会うのは三回目ですね。前にあったのは五年前ですか…ずいぶん経ちましたね。相変わらず、僕はあなたのこと嫌いですけど。」

「面と向かって嫌いとは…心外な奴だな。だが、今日、晴馬に伺ったのはほかでもない。」

「何ですか、また僕にスパイをしろとでもいうのですか?」

「いやいや、違う。」


 やれやれ、先に芽を潰したけど、違うのか。

 この会話を聞いてわかるだろうが、僕は孤立をしていて、人から認識されることが少ないためその特性を生かし、高野家の隠れスパイとして中学の時は働いていた。

 親がその時は忙しく単身赴任を繰り返していたため少しでも月収にかかる仕事はやりたかったのだ。


「今回、君のもとを訪れたのはこれを見てほしかったからだ。」


 そう言って高野さんは僕に一枚の写真を見せた。

 そこにはひとりの少女が写っていた。


「これは…誰ですか?」


 僕が高野さんに聞く、高野さんはメガネのフレームを少し上げるといった。


「これは、八年前に死んだはずの少女の現在の姿だよ。いや、正確には私の娘と言っておこうか。」


 高野さんに言われて僕は改めて写真をまじまじと見た。

 すると、とんでもないことに気づいた。


「八年前…まさか、この写真ははるかの?でも、そんなバカな。遥は…遥は死んだはずじゃなかったのか?」


 そこには僕が小学生の時に死んだはずの幼馴染みがはっきりと写っていた。

 そして、この出会いが、後に僕の運命を変えることをその時の僕は知らない。

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