第三十六話『手のぬくもり』
「っと、それより下にいる二人はどうした?」
僕はベッドから立ち上がり、理奈に聞いた。
理奈はコホンと一つして表情をもとに戻し、手を腰に付けて言った。
「えっと…私の気が付いたときにはエミリーちゃんはいなくなっていて、優実ちゃんは隣でグースカ寝ていたわよ。何で私たち眠っちゃっていたのかしら…」
やれやれ、美奈子による睡眠薬が原因というのは言わないでおこうか。
なんか変に誤解を招かれるのも嫌だし。
それに協力していたというのは多分、美奈子が来るまでの間をひきつけてね。とでも言っていたのだろう。
その後のことは何も聞かされていないという感じか。
エミリーはおそらく美奈子に連れていかれて優実の部屋で眠っているだろう。
それにしても、美奈子はなぜ睡眠薬なんて言うものを持っていた?
僕は美奈子とよく話すし、家にもお邪魔したこともあるけどそんなものを見た覚えがない。
睡眠薬は単なる思い込みでできるとも聞いたことあるけど、実際はどうなのか分からない。
あれからどのくらいの時間がたったのか。
僕には判断することができないからだ。
僕は万能じゃない。
何でもは知らない。
知っていることだけ覚えている。ただそれだけの高校生だ。
「さあ?多分、疲れていただけだ。特に何もないだろう。」
僕の返答にじーと少し怪しげな目をして理奈が言う。
「そうかしら…なんだか物凄く嫌な予感がするのだけれど…。気のせいかしら?」
「気のせいだろ。」
こいつ…今の言葉で嫌な予感までもっていくとは…ひょっとしたら物凄く勘のいいやつかもしれない。
今後、失言には気を付けておこう。
「とりあえず、僕は優実を起こしに行ってくるよ。理奈はどうする?ここで待つか?」
「ううん、私も晴馬の後について行くよ。何かあったら嫌だし。」
「……」
今のセリフはデレとして受け取っていいのだな。
「分かった、はぐれないようにしっかりつかまっていろよ。」
「うん…頼りにしている。」
僕の服の端っこにちょこんと理奈の手の感覚が伝わったがあえて言わないでおこうか。
やれやれ、何だかものすごく疲れたけどこれでいいってことだよな。
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