第三十五話『僕だけが出来る罪の償い方』
僕の行動に美奈子は驚いたのか目をキョトンとさせた。
「晴馬くん、何か対抗策でもあるのかも思っていたよ。」
「あるわけないだろ?この状況でそれを思いついた奴は天才だよ。」
「ふうん、わかった。晴馬くんがそう望んでいるのなら、遠慮はしないよ。」
「ああ…やるならやってくれ。」
「わかったよ、それじゃあ、少しだけそのまま目をつぶっていてね。」
僕は美奈子にいわれるがまま、目を閉じ、少しの間だけだが、時を待った。
「晴馬君はボクのものだから…理奈ちゃんだけずるいよ。」
そう言った美奈子は涙ながらに僕に迫る。
そして…僕は自分の唇に何か暖かいものがついたのが感じ取ることができた。
ああ、これが罪なのだ。
これは誰にもぬぐうことはできない。
僕一人だけの罪の償い方だ。
美奈子が「ありがとう晴馬くん、もう目を開けていいよ。」と言うまでどのくらいたっただろうか…。
少なくとも今の僕には何も考えることができない。
ただ、目を開けたときの美奈子の表情がとても真っ赤で僕を見つめているという光景だったというのを覚えているだけだ。
その時点であの唇の感触が美奈子からのキスであることに気付く。
「なぁ…美奈子、大丈夫か?」
僕はすっかり動けるようになった手を差し出し、上に乗っている美奈子をゆっくりと起き上がらせた。
「晴馬くん、怒らないの?」
「何を言っている?」
怒る?お前が僕に対していつそんなことをしたのか。ぜひ、ご教授してほしいね。
「晴馬くん、もしかして…。まあ、いいか。覚えていないなら別にいいか。」
どういうことだ?ますます訳がわからなくなった。
僕が考えていると後ろからドタドタと物凄い音が鳴り響いた。
それに驚いた美奈子は窓に手をやると僕に言う。
「さて、そろそろ、時間だ。それじゃあね。」
そういった瞬間、僕の部屋が開け放たれた。
「晴馬!!大丈夫!?」
来るのが遅いぞ!救世主。
「あー、理奈か…。ああ、さっきこっちに美奈子が…あれ?どこに行った?」
美奈子の姿がいつの間にか消えてなくなっている。
おそらく、自分の家に戻ったのだろう。
「はぁ?美奈子なんていないじゃない。出まかせを言うことはやめてよね。」
「はいはい、悪かったよ。」
「むー、悪びれてないなぁ。」
とてもお怒りの様子だ。
どうにかして怒りを鎮めないといけない。
だが、僕には解決策がしっかりとあるじゃないか。
僕は椅子に座り、理奈の顔をまっすぐ見て言った。
「やれやれ、分かったよ、それじゃあ、今度の週末どこかに出かけよう。」
「えっ…それってデートってこと?嫌だなぁ恥ずかしいじゃない。もう!私のバカバカ!」
一体、なんなのだ。こいつは…
今更だが、僕は出かけようとは言ったが二人でとは決して言っていない。断じてだ。
どこで間違ったのかこの情報は…。
もう、いいや、なんか疲れたわ。
「僕は一言もデートとは言ってないけどね。」
「あんたはいつも…ううー…私とデートできるだけ光栄に思いなさい!」
「ハイハイ、分かりましたよー(棒)」
なんかめちゃくちゃ上機嫌なのでこのまま放っておくことにしておこう。
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